◆ 雪月華【2】斎藤×千鶴 (本編沿)

□鎖帷子 銭帷子
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【鎖帷子銭帷子 1】



かねがね西本願寺より移転を要望されていた新選組だが、
鬼の襲撃を受けた事実を知った寺側より早急な移転を促された。

土方は、西本願寺が建てていた広大な屋敷を要求した。
これが通り、新選組は屯所を移転した。

真新しい木の匂いのする屯所でのある1日の話である。



「鎖帷子ってあるじゃない?」
「はぁ…」
「あれ、お金で作れば良いのにって思ってるんだけど」
「はぁ」
千鶴は気の無い返事を返した。
つい昨日も沖田は、銃の先に槍先を付けたら便利なんじゃないか、至近距離の敵なら弾使わなくて済むし、などと言い出していた。
「千鶴ちゃん、裁縫出来るでしょ?作って」
「はぁ。でも沖田さん、もう鎖帷子お持ちですよね?」
「だから、千鶴ちゃんの」
「私……ですか。でもそんなに沢山のお金持ってませんし」
「はい、これ」
ズシリと重たい袋を渡された。
「……沖田さん。この重さを着たら、動けません…」
「そっか。じゃあ、弓で使う胸当てみたいなのを着物に縫い付けたら?
君、鬼でしょ? 心臓が無事なら生きられるじゃない?」
「……はぁ。良いですけど。 どうしたんです?急に」
「ヒマだから色々思いついちゃうんだよ。
鎖の代わりなら金属だよね」
「はぁ…」
「ちょっと作ってみてよ」
千鶴は完成図を頭に描いた。
袋状のものを付ければ簡単に出来そうではある。
「はあ。良いですけど」
「じゃ、脱いで」
「はぁ?!」
男の前で脱げる訳が無い。
「だって心臓の場所からずれてたら意味無いじゃない。
襦袢に千鶴ちゃんの心臓の場所、印つけてあげる」
「脱ぎません!」
「脱がせてあげるから」
「脱ぎません!」
沖田に腕を引かれ、千鶴が沖田の上に倒れ込む。

「またお前らは、何を遊んでやがる……。
…………総司。今度は千鶴に何をするつもりだ」
千鶴が驚いて声の方を向いた。
障子を開けた土方が入ってきた。
「千鶴ちゃんにも鎖帷子をって話ですよー」
沖田が話の流れを説明し、土方の前で再度千鶴の長着を脱がせようとした。
「……それは、使えるかもしれねぇな」
「土方さん?!」
止めてくれると思っていた土方が沖田に賛同したため、千鶴は青ざめた。
「でしょ?」
「だが、金属の板なんて今無ぇだろ」
「小判で良いんじゃない?
3枚を二段か三段にすればちょうど良い」
「三段だと動きに支障が出るな。
前に二段、後ろは三段ってところか」
土方が千鶴を見ながら言った。
沖田が膝の上の千鶴を軽々とひっくり返し、うつ伏せにさせる。
「ちっちゃいなー。二段、でしょうね」
沖田の声音がほんの僅かに真剣味を帯びる。
「1枚板より小判の大きさを並べる方が、動きやすいのは確かだな。
縫い付けちまえば普段から使えるか」
「隊士なら肩に欲しいところですね」
「肩は動き辛ぇな」
「背中に水玉模様みたいに散らすのも良さそうですね」
「それなら小銭でも良いな。刃が止まりゃあ良いんだからよ」

割と名案だったのか……と、千鶴は背中の上を飛び交う沖田と土方の会話を聞いていた。
「千鶴、小判の胸当て、お前ちょっと試してみろ」
土方まで言うなら仕方ない。
「はぁ」
千鶴は一応返事をした。
「でも私、小判なんて持っていませんし。
私が常に身につけるなら誰かの小判を使う訳にもいきません」
「僕あるよー」
いつの間にどこから出したのか、沖田の手に6枚の小判。



沖田さん、わざとだ!
さっきの小銭といい、この小判といい、今日の沖田さんは絶対、この話の為に仕込んでたんだー!
それで脱げって言ってからかうつもりだったんだー!
うー!



「借りとけ、千鶴。何か印をつけるモンは…」
「血なら洗えば取れるんじゃない?」
沖田が枕元の脇差しに手を伸ばした。
「止めて下さい!お茶殻持って来ますから!!
印はお茶殻で付けましょう!」
「なるほどな。千鶴、取ってきてくれ」
「……はいぃ……」
千鶴はとぼとぼと歩いて行った。
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