◆ 雪月華【2】斎藤×千鶴 (本編沿)

□とある隊士の覚書
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【とある隊士の覚書】



園田一 大司(そのたいち たいし)。
三番組の隊士である。(勿論捏造キャラである)
新選組に入って1年半ほど。
斎藤より、歳は少しばかり上。
園田一は、三番組の組長を敬愛する一人である。



**********



「お邪魔にならないよう気を付けますので、宜しくお願いします」
いつもそう言って、平時に時々巡察についてくる体の小さな彼が、
“彼女”であることは三番組の隊士は薄々気づいている。

園田一が入隊した頃はまだ少年に見えなくも無かったが、ここ最近、急速に華やいだ。

そしてその彼女と居ると、我らが誇る三番組組長、斎藤一の鉄仮面から時折、不器用で優しい青年の顔が見え隠れする。

彼女、雪村千鶴君も、組長の事を密かに慕っているのではないかと思っている。

三番組の隊士は、
敬愛する組長の幸せを密かに応援していた。



正月の3日。
特命に出た斎藤組長の代理だという沖田組長に連れられ、三番組は巡察に出た。

その際に、いつもは凜とした雪村君の、とても可愛いらしい様子を見る事が出来た。
なんと斎藤組長に姫君のように抱き上げられ、嬉しそうに甘えている。
三番組は、斎藤組長の勝利を確信し、延長された巡察中も慶びに沸いた。



斎藤組長が三日間の謹慎となった。

前日に組長と千鶴の仲が進展したと喜んだのも束の間、
その報を聞いた三番組の隊士たちは騒然となった。


「あの組長が謹慎になるなんて、何があったのだ?」
「どうやら特命の際に連絡不行き届きがあり、その関係らしいのだが…」
「特命とは、あの、3日の日も入るではないか」
「ああ。その特命が3日で終わったのは、雪村君の活躍があったからのようだ」
「……あの、雪村君が?」
「ああ。雪村君、様子が変だっただろう?
酒の飲み比べで勝って、組長を取り戻したとかなんとか…」

「しかしあの子は……」
「ああ。だが組長が雪村君を連れ帰った際に、
土方副長が“お前が体を張る必要はない”と、雪村君を叱ったそうだぞ」
「雪村君は、身を呈して斎藤組長を救ったという事か?」
「そうなるな」
「なんと……」
「そうか……。我々ももっと励まねばな」
「ああ。そして雪村君は、組長が大事にしている人だ。
雪村君に何かあった時には、我々も死力を尽くそう」

「さしあたって…我々に今出来る事は何だろうか?」
「…………」
「…………」
「…………差し入れ?」
「ふむ」
「そうか」
「なるほどな。だが、何を?」
「組長なら酒だが……」
「謹慎中は不味かろう」
「雪村君に何か贈るというのは?」
「それは組長がなさらねば意味が無かろう」
「それもそうだな」

「雪村君に、一緒に過ごして貰うというのは?」
「どうやって、どういう理由をつけて頼むのだ?
我々は幹部棟の雪村君には近づけぬぞ」

「……なぁ。組長に旨いものを差し入れして、
一緒に食って貰えば良いのでは……?」
「名案だ!!」
「そうしよう!
組長への差し入れなら、話を通せば何とかなるだろう」
「誰に話を通すんだ?」
「……まずは、組長と仲の良い幹部の方に……だろうか?」
「……斎藤組長と仲の良い幹部……って、誰だ?」
「…………」
「…………」
「…………意外な盲点があったな」
「…………」
「…………」
「……永倉組長も謹慎だそうだ。
あの時は永倉組長も斎藤組長と同行なさっていたという事だろう。
永倉組長にも差し入れをして、
永倉組長と仲の良い原田組長に頼むのはどうだ?」
「……出費が増えるが、仕方あるまい。
組長の為だ」



謹慎になった斎藤の代理は、沖田だった。


よく喋るなぁ…。
それでも周りへの警戒は緩めてないのは
さすがはじめ君の組、って感じ。

はじめ君は人気者だねぇ。
おまけにはじめ君が千鶴ちゃんを大好きだってみんな知ってるし。
……本人が知ったらどんな顔するか、見てみたいな。



沖田はニヤリと笑った。



「ねぇ、君たち」
「はいっ」
沖田が振り向いて声をかけた。

三番組の隊士たちは、一瞬の隙も見せずに沖田に注目する。
なぜなら、彼らはあの斎藤の率いる部下なのである。
隊務中に仕事を疎かにする事は無い。
……………………刀剣の店の前で、組長が立ち尽くす時以外は。



「その差し入れ、僕が持って行こうか?」

爽やかな笑顔で、沖田が言った。




魔がさす、とは、こういう事も含むのだろうか。

三番組の隊士たちは、沖田の提案をありがたいと思ってしまった。
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