◆ 雪月華【1】斎藤×千鶴(本編沿)

□Go West〜お西さんへお引越
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【Go West―お西さんへお引越 1】



千鶴が土方に「必要ない」だの「死んでも構わない」などと言われて落ち込んだものの、ようやく浮上した桜の季節。


今日は、西本願寺への屯所移転である。


その朝沖田は、平助の部屋に居た。
ごちゃついた部屋から三枚の、ある紙を見つけ出し持ち出すと、ニンマリと笑って部屋を出ていった。
江戸へ隊士募集に行っている平助は、出かける前に最低限は片付けて行ったのだが、今は散らかっている。
勿論沖田のせいである。


自分の引っ越し作業を終えた千鶴は、土方の指示で平助の部屋の引っ越し準備に取り掛かろうと、平助の部屋に来た。

そこで荒らされた平助の部屋を見て、一応土方に報告した。
「昨日お部屋の掃除をした時は、もう少しまともだったんです。
泥棒…という事は無いでしょうし、どうしましょうか?」

土方も平助の部屋に来て惨状を見た。
衣類――ぶっちゃけ下帯なども散らかっていたため、平助の部屋の準備は斎藤に任された。

千鶴は、土方の部屋の、主に書面の引っ越し準備を手伝う事になった。
土方は、まだ書き物をしている。
どうやら新居での部屋割りを、今ごろしているようであった。



千鶴は手際よく書面を山にし、行李に詰め、荷札をつけていっていた。

「ヒッ」
その途中で、千鶴は小さな悲鳴をあげると部屋を飛び出していった。
土方は怪訝な顔をしたが、時間に追われて千鶴どころではない。
虫でも居たのだろうと軽く見て、放っておいた。



部屋を出た千鶴は赤い顔をして、永倉の横をすり抜け、まっすぐ平助の部屋に居る斎藤の元へ走った。
「さささ斎藤さん!」
「どうした」
ただ事ではない千鶴の様子に斎藤は緊張をみなぎらせる。
「ひ、土方さんのお部屋で………っ」
斎藤は千鶴の次の言葉を待った。
が、千鶴は、耳まで真っ赤になって斎藤を見上げ、続きを言えず、口を開閉するばかりである。
その仕草を可愛いらしいと思ったが、
千鶴の胸の辺りで強く握られている手を見て、まさか、と思った。


こんな人の動きのある時に、副長がそんな暴挙に出る筈がない。
しかし副長とて男で、しかも昔はタラシだった。
バタバタしている現状を逆に好機と見て雪村に手を出し……。
まさか……っ!


日々頑張っている土方に対して大変失礼な方向へ思考を走らせた斎藤は、千鶴の手を取ると土方の部屋に走った。

すぱーん!と障子を開け放った斎藤に、土方は背中を向けたまま、怒声を飛ばした。
「うるせぇぞ総司!」
「副長っ!」
返ってきた声は沖田では無かった上に、かなりな剣幕の斎藤だった。
振り向いた土方は一瞬驚いたが、斎藤が千鶴も伴っているのに気づくと平静に戻った。

最近の斎藤は、千鶴が絡むと意味不明な挙動不審。

それが土方の近頃の認識である。
またか、と思い、軽く流して机に向かい直した。

「斎藤か。どうした?」
斎藤は隣の千鶴と土方の様子を見て、自分の思考を秘かに謝罪した。
「……いえ、すみません。取り乱しました」
斎藤がもう一度千鶴を見ると、千鶴は赤い顔のまま、土方の背後の紙の山を指差している。
斎藤は、その紙の山の前で膝を付くと、パラパラとめくる。
何の変哲も無い。
千鶴は斎藤の横に座ると、そっと紙の山へ手を伸ばし、言いたかった事を無言で斎藤に伝えた。


紙の山の中に1枚、枕絵(今で言うエロ写真)が、あった。


斎藤が一人の時に見つけたなら、どうという事は無い。
それが土方の部屋の重要書類の中にあっても、困る事は無い。
が、
見つけたのは千鶴で、すぐ隣に居る。
さすがの斎藤も、どう対応したものかと動きを止めた。
その斎藤に、千鶴が更に小さくなり赤くなり、焦った。
引っ越し準備で騒がしい屯所の中、土方の背後は完璧な静寂となった。


土方はその気配に、やっと振り返った。
「何やってやがる、お前ら?」

斎藤は枕絵を抜き取ると、そっと土方に渡した。

「…………………………!
お、俺のじゃねぇ!」
土方は差し出された絵をグシャグシャと丸めると、部屋の隅に放り投げた。

「……総司だな」
「……総司でしょう」
土方と斎藤は、深々と息を吐く。
大方、千鶴が土方の引っ越し準備を手伝うと見越して仕込んだのだろうと、二人は見解を一にした。

「……こん位の気遣いを、新選組の為にやってくれりゃあな…」
土方はボヤいて、再度机に向かった。

「斎藤さん、すみませんでした…」
「いや。何かあったらまた言うと良い」
「はい」

二人が穏やかにに見詰めあって、斎藤は平助の部屋へ片付けに戻り、千鶴が書類の整理を再開した頃。

フッと土方は苦虫を噛み潰した。

「……すぐ横に俺が居るのに、なんでわざわざ斎藤を呼びに行くんだよ…」

千鶴に頼られたい訳では無いが、少しばかり傷ついた気分の土方であった。
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