◆ 雪月華【1】斎藤×千鶴(本編沿)

□君なんて要らない【1】
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※山南さんの変若水飲みの後の、土方さんの台詞に端を発する捏造話なので、暗めの重めです。
おまけに長め…。
そして途中、斎藤さん、土方さんへのバッシングあります。
土方さんはコメディ路線に片足突っ込み、斎藤さんは根暗っぽいです…。
かっこいい土方さんも斎藤さんも何故か居ません…。
沖田さんがおいしいとこ取りです。
なにゆえ…orz
苦手な方は見ないようお願いします
m(__)m


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【君なんて要らない 1】







山南が変若水を飲んだ―――。
その騒ぎから、変若水の秘密を知った千鶴は土方に「お前は新選組に必要無い」「いつ死のうと困らない」と言われた。
土方が言いたかったのは、だから行動に気をつけて欲しい、という事のようではあった。



だが。

千鶴の耳には、必要無い、死んでも困らない、という言葉が張り付いた。



そして、幹部の誰かと一緒に居ろと言われた時。
今までなら単純に斎藤の傍を選んだだろうと千鶴は思う。



千鶴が今よりも子供だった頃。
父が労咳の患者を看ているのを知り、伝染る事を恐れてやめてくれと言った事があった。
その時に父は、責任のある立場の者はそれなりの務めを果たすべきだ、と優しく言った。

それから千鶴は、難題は責任ある立場の者が引き受けるものだと考えるようになっていた。

そんな記憶があったからだろう。

どうしても迷惑をかけるという状況では、「副長助勤」という肩書がある斎藤を頼るのが良いだろうと思っている面が千鶴にあった。

そして幸いな事に、斎藤の傍は単純に安心出来た。
表情に乏しい人で、何を考えているか分かりにくい面はあったが、とても優しい人だという事はすぐに分かったから。

自分の苦労や手間を省みず、見返りも評価も期待せず面倒を見る人だと感じていた。


しかし今は。

土方のそばには居られなかった。

だからどちらかと言えば迷惑のかかりにくそうな場所に行くように選んだ。
その場所にたまたま斎藤が居るだけ。
優しい斎藤の傍なのに、息をする事すら、許されているのか怖かった。



密やかな声でも届く距離に、遠い遠い斎藤が見える。


死んでも誰も困らない自分と、
影響が大きいであろう斎藤との距離。
皆に心配されている山南との距離。
その距離に比べれば、月の方が近くに感じる。
かぐや姫は、今の自分と同じ気持ちだっから月に帰ったのだろうか…?


ほんの少し前には殺されずに済んだと安堵したのに、今なら、死ねと言われたら、わかりましたと言いそうな自分を、千鶴は抱えていた。



斎藤の今の任務は伊東一派への警戒だと認識している千鶴は、
迷惑がかからぬように、
伊東一派の動きがあれば気付けるように、
伊東一派の部屋が見える方向を向いて立っている。
冷えた中庭は、静かだった。



その千鶴の耳に、斎藤の大きくない声が届いた。
いつもと変わらぬ淡々とした口調だった。千鶴は、価値の無い自分に、価値のある斎藤が話しかけてきた事が不思議だった。

「……山南さんが薬に手を出すほど、追い詰められていたとは知らなかった」
斎藤の言葉が哀しい。
山南が感じていたであろう苦悩は、今の千鶴にはすぐ隣にある思いだった。
千鶴の心は一段冷える。

「新選組の総長が狂ったと公になるくらいなら、山南さんには死んでもらった方がいい」
「必要があれば、誰であろうと斬る。……それだけの話だ」

斎藤の声は苦い。
山南の苦しみに気づけなかった自分を責めているのだと千鶴は思った。

優しい人なのに、斬らねばならぬならば斬ると言う。
斬るべき、ではなく、斬る、と。
斎藤は、仲間を斬り殺すという重荷を他者には背負おわせず、自らが背負うつもりなのだろうと思った。

それは斎藤の、俗に言う所の覚悟というものだろうか。
それとも、それは山南が血に狂う姿を他者に晒させぬ為の優しさなのだろうか。

斎藤が言葉を紡ぐほど、一段、また一段と千鶴の心は冷え込みを厳しくしていく。



それでも千鶴は斎藤の言葉に耳を傾ける。
斎藤が、必要の無い自分、死んでも構わないような自分に向かって何かを言うのを一所懸命聞こうとしている。

自分の存在の無意味さで消え入りそうなのに、千鶴は自分の辛い気持ちを精一杯棚にあげて、斎藤が言いたい事を受け止めていた。
雪村千鶴とは、そんな娘だった。



「できるなら仲間は殺したくない。……あれは寝覚めの悪いものだ」



仲間にさえ入らない自分を斬るのは、斎藤には、土方には、新選組には、歩くのに邪魔な小石をどかす程度に軽い事。
一晩の寝覚めの悪ささえ感じてもらえないのが、自分の今の立場。

短くはない月日の中で得た嬉しかった事も、馴染んできた関係も、思い上がりでしかないのだ。

虚しさと自分の愚かさに、千鶴の心は固く冷え切った。
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