◆ 雪月華【1】斎藤×千鶴(本編沿)

□蛤御門へ行きますか
1ページ/1ページ

【蛤御門へ行きますか】



千鶴が対長州戦にも参加したいと言った、と聞いた斎藤は、寝入り端に長考に入ってしまった。



戦力にはならないが、戦端が開かれ怪我人が出た場合、彼女は役に立つと思われた。
しかし、戦場へ連れ出す事には賛成しかねる。
が、怪我人が出るのは戦場。
1つは、この堂々巡りな問題である。


そしてもう1つ。
そもそも、客人で保護対象である人間を、新選組の隊務に連れ出すのはいかがなものか…。
だが本人は参加を希望しているという。
あの娘の事だから、何か出来る限りをしたいと思っての事だと思われた。
その機会を斎藤の意見で潰したら、あの娘は我慢して笑って、悲しい目をしそうだ。
しかし危険からは遠ざけておいてやりたいと思う。

つらつらと考えているうちに、体の疲れが眠りに落とす。
ここ数日、斎藤はそんな寝落ちを続けていた。



斎藤自身の結論が出ぬうちに、その日が来た。
会津藩からの長州制圧の援護要請である。

斎藤は、近藤からの下知を聞きながら、まだ結論を出せずにいた。



土方が千鶴に留守番を言い渡した時は、それで良いと思った。
千鶴自身も、戦場へ出る事に躊躇いがあるようでもあった。
斎藤の結論は、千鶴不参加が良い、となった。



しかし。
山南の言葉に、斎藤は表に出さずに激昂した。
千鶴への冷笑か侮辱に見えた。
正当な評価がなされない事への怒りは、一瞬で沸点を越えた。



山南は雪村に伝令役を任せた。
土方より早く雪村の存在を、
雪村の持つ力を見切って任せた人間ではないか。
何故に、掌を返し冷笑する?

雪村も、信頼に応えたではないか。

山崎を残し走ったと聞いた。
己の役割を知り、果たしたではないか。

武士の覚悟を1度は決めた新人隊士でさえ膝を震わせたあの時に、
守ってやれぬと言ったのに、
ためらい無く俺の後ろをついてきたのだ。
保身の欠片も考えず、負傷した仲間を救う為に、あの剣戟と血まみれの中を雪村は走った。
雪村の処置のお陰で、怪我人の予後は悪くない。

それは、雪村が出した結果だ。


結果を出した者を侮るのは。
雪村を侮辱するのは。



赦さぬ。



反射的に、山南への反論が口を突いて出てしまった。

千鶴を参加させたかった訳ではなく、千鶴の池田屋での働きを軽く扱われた事を否定したかっただけだった。



言ってしまってから、斎藤は沖田の強烈な批難の視線に刺されている事に気づいた。
そして、自分の失態を知った。
自分は、千鶴を戦場に連れ出してしまう流れに乗ってしまったのだ、と。

斎藤は、やや目を伏せた。
後の祭りであった。



参戦をためらっていた千鶴は、斎藤の発言に目を見開いた。
普段から斎藤を頼りにしている自覚がある分、斎藤には迷惑と負担をかけていると思っていた。
その斎藤が、池田屋では役に立ったと山南に反論してくれたのだ。
鼻の奥がツンと痛くなる。

何か、少しでも、出来ることをしたい。
千鶴は強く思った。



斎藤に続いた近藤の発言で、その場の雰囲気は、千鶴参戦に傾いていく。



沖田は僅かに険しい顔をしていた。
近藤が千鶴を連れていく事を請け負った以上、沖田は反対しない、出来ない。

しかし、千鶴に万が一何かあった時には、近藤は悲しむだろうと思う。


それはイヤだなぁ。

千鶴ちゃんは仲間だけど、隊士じゃない。
その千鶴ちゃんを戦場に連れ出そうなんて、おかしな話だよ。

千鶴ちゃんは、役に立つ。
土方さんを突っつくのに役に立つし、
掃除や食事に役に立ってる。

池田屋で、千鶴ちゃんが仲間の為にどこまで動けるかも見せて貰った。
だから、千鶴ちゃんは良い子。

けれど、それは、仲間の為であって、新選組の為じゃないよね。
仲間の為になることが、たまたま新選組の得になってるだけ。
僕の、近藤さんへの気持ちみたいなものだよ。

どうしてこんな当たり前の事がわからないのかなぁ。
腹が立つ。



沖田は、千鶴の参戦に反対すると読んでいた斎藤が、千鶴参戦許可にまわった事が余計に忌々しく思えた。

千鶴参戦反対の主張を封じられた沖田は、斎藤を責めるように睨む。
八つ当たりではあった。
が、沖田にしてみれば、斎藤があんな話の主筋とズレた所で斎藤自身の過去と今の千鶴を重ねて見たような発言をしなければ、まだ反対する余地があったのに、と思う。

「戦場に行くんだってわかっているなら、後は君の好きにすればいいと思うよ」



一君。君が千鶴ちゃんを戦場に連れ出すんだ。
責任取ってね。



沖田の言外の含みに、斎藤は、何があろうと千鶴は自分が守らねばならぬと心に刻んだ。



沖田は斎藤を冷たく見た後、やや諦めた目で千鶴を見る。
無理だろうとは思いながらも、千鶴を柔らかくたしなめてみた。

しかし予想通り、千鶴は行く決意を変えないようだった。



沖田の発言に、小さく身動ぎしたのは原田だった。
それを見逃さず、沖田は原田をも冷たい視線で刺す。
守ってみせろよ、という挑発である。
原田が一瞬沖田を見てすぐに視線を斎藤に送り、そして畳に落とした為、沖田は自分の言いたい事が伝わったとわかった。



屯所待機はイヤだなぁ…と、沖田は自分の掌を見つめた。


――――――――――――――――――


千鶴が戦場へ行くのを斎藤さんが止めないのが不思議だったので、捏造してみました。

原田さんも、原田ルートであれだけ千鶴を女扱いする人なのに、止めないのも不思議で。

沖田さんは恋愛感情無し。
理由は…斎藤←→千鶴←沖田、だと、沖田さんが切な過ぎるから…
(^^;

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ