◆ 続・妖怪ハンター“S”

□10.千客万来の事【5】完結
1ページ/4ページ

【盆15】




「本物の客まで来たのか。
正に千客万来だな」

仕事の合間、みっちゃんが、
お腹が空いたからもう動かない!と
ふてくされた。
仕方無く寄った蕎麦の屋台で話している。


「ごろちゃんってさ、最初人を寄せ付けない奴かと思ったけど、
そうでもないよな」
斎藤は黙って聞いている。
自分にわざわざ寄ってくる者など
居ないと思う。
自分から他人に関わろうとも思わない。
やるべき事をやるのみ、と、これは今も昔も大差無い。
今回の盆の騒ぎでも、慕われているのは土方で、
人が寄って来るのは土方だと思う。

「ごろちゃんはさ、扱い方が解れば平気なんだよ。
大抵の事は許してくれるし」
みっちゃんが答えた。



……扱い方……。



みっちゃんの表現に、斎藤の眉根が少しばかり寄った。
「でも少し固っ苦しくねぇか?」



……本人を前に、よく堂々と言い放つ。


「この位の人が居ないと駄目なんじゃない?世の中は」
「御新造サン、よくやっていけるなぁって思うけどなぁ」
「蓼喰う虫も好きずきって言うじゃない」



……蓼……。
俺はそんなに変なのか……。



「その新しい客も物好きだよな。
友達少ない奴?」
つっちーの質問に、斎藤は園田一の記憶を引っ張り出した。
新選組時代は、結構仲間内と仲良くやっていたように思う。
少なくとも友人と呼べる相手は居たようだった。
「いや、普通だ」
「なのにごろちゃんを訪ねて来たんだろ。物好きじゃねぇか」



……酷い言われ様だ。



「そう言うけどさ。
じゃあ、つっちーだったらさ、
二課の中で誰を一番に訪ねる?」
「後藤さんだろ。課長だし」
「肩書きを脇に置いたら?」
「………………。……まぁ、なぁ……」
「ほら。やっぱりごろちゃんを頼るじゃん。
後藤さんは得体が知れないし、
ジョン君はアレだし、
私もつっちーもそういう人柄じゃないし。
ともちゃんって、あれで割と周り見てないし。
ごろちゃんを知ってる人なら、
ごろちゃんは何とかしてくれるって分かってるんだよ」



……特段世話をした覚えは無いのだが。



「そう言えば原田がさ、」
「原田って、あの男前?」
「そうそう。原田と御新造がさ、
ごろちゃんは仲間思いだって言ってたな」
「そうとも言えるよね」



……俺を前に、俺の噂話をするのは
一体どういう了見なのか……。



「あとさ、やっぱ、状況判断良いし」
「ああ、あと、仕事早いよな。
報告書なんてすらすら書き上げちまうし」



……報告書の何が難しいか、わからん。



「それはつっちーが遅いの。
あと、規則破るのが上手い」



……それは褒められる事では無い。
そんなに破っているか?



「この前の団子の話か?
それを状況判断って言うんだろ。
あのままじゃ、仕事にならなかったし、
俺達の仕事で俺達が放棄したら、
代わりが効かねぇんだから
大事(おおごと)に直行だろ」
「そっか」



……喋っていないで、早く食え。
それから箸を振り回すな。



「あと、忍耐強い」
「ああ!それは二課では必須だよな」



……あんたらに、忍耐強さを感じた事は無いが?
どちらかと言うと……。



「課長もだけどさ、私たちと一緒にやっていけるのは、
私たちと同類か、
我慢強くて要領良い人だよ、やっぱり」



……そういう事か。



「頭悪い奴は嫌だな」
「つっちーの言う頭悪い奴って、ひがむ奴の事じゃない」
「同じだろ。頭良い奴はひがまないじゃ無ぇか」
「同じかなぁ……。
まぁ、暗い人は嫌だよね」
「ごろちゃんは暗いんじゃねぇ?」



………………。俺は暗いのか。



「喋らないだけじゃん」
「それを暗いって言わないか?」
「暗いってのはさ、話の内容だよー。
ごろちゃんは別にウジウジした話、しないじゃん」
「そもそも最低限しか話さねぇだろ」
「そうだけど」



……本人を前に噂話は……。



「だからさ、結局、その新しいお客さん、
ごろちゃんを好きなんだよ。
好きで追っかけてきたんだよ」


ブホッ。


既に食べ終わり、お茶を口にしていた斎藤は
みっちゃんの言葉に盛大に吹いた。
激しく咳き込みながら、強く思った。



頼む!
誤解を招くような言い方はやめてくれっ。
頼むから、千鶴の前でだけは
絶対に言うな!
絶対にだ!



「うわ!ごろちゃん何やってんの!」
咳き込んだ斎藤の背をみっちゃんは強く叩いた。
親切のつもりだろうが、力が強くて余計に咳き込んだ。



……口も手も縫っておいてくれっ。



一通り咳き込み、落ち着いた斎藤は表情の無い顔を上げた。
「いつまで喋っている。行くぞ」
「わ。食べる食べる!」
「ごっそさーん。親父、酒……」
斎藤に睨まれ、つっちーは追加注文を取り下げた。
「この間は酒……」
斎藤の眉間にはっきりと皺が寄った為、
つっちーは言うのを止めた。
「へいへい。状況判断ね」
「ごちそうさま!」
「行く」
「はーい」
「へーい」



……何故、俺が仕切っているのか……。



「ごろちゃん、すげー皺」
つっちーが眉間を指差した。



……土方さん。
何故土方さんの眉間に皺が刻まれたのか、
今なら解る気がします。
それから。
俺の組下の面子を、熟考して選んで下さっていたのだのだと
改めて感謝します。
……二人は、佐之と新八と平助を
足して割ったようだ。
土方さんも大変だっただろう。



斎藤は長く息を吐いた。
土方もよく溜息をついていた事を思い出した。



その土方も、原田も、今日帰る予定だ。
総司も、おそらく。
戦死した者たちも、どこかで帰って行くだろう。
目の裏に、京で見た大文字焼きが甦った。

帰る予定の土方たちの代わりのように園田一が現れ、
土方の為に連れてきたつっちーが土方たちと出会った。
つっちーは今夜も押しかけて来るだろう。
そこには園田一が居る。
今の仲間と旧い仲間が出会い、繋がる。



……人と関わっていくというのは、
繋がっていくものだな。



人の命を奪ってきた手を見る。
そんな自分が極楽浄土に行ける訳も無い。
死んだら終わり。
どこかでそう見切っていた。



死んだ者への思いは変わらぬ。
ならばこそ、今生の繋がりは大事にした方が良いか。
俺はもう少し
自ら人と関わるという事について考えた方が良いかもしれぬ。



「ごろちゃん?置いてくよ?」
「………………。」
みっちゃんに声を掛けられ、斎藤は馬にまたがった。
青い空の下。
手綱を取って馬を進めた。



まだ、空の下、だな。



願わくば。
大切な者たちをより長く守らん。
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ