◆ 続・妖怪ハンター“S”

□9.千客万来の事【4】
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【盆10】




翌日、出勤した斎藤を見たつっちーは、
軽く苦笑いをした。
「何かあったか」
「色々あった。
すまぬが、今夜寄ってもらえぬだろうか」
「飯付きなら良いぜ」
「……相わかった。だが千鶴にも知らせねば……」
「それなら任せろ」
つっちーはポケットから人型をした紙を取り出した。
つっちーは、普段は懐から白い紙を出す。
初めて見た型の紙を、斎藤は不思議に思い、見た。
つっちーは紙にフッと息を吐きかけた。
風に乗って紙は一回りし、どこに行ったか分からなくなった。



**********



「あら?はじめさん?!どうなさったんですか?!」
庭で洗濯物を干していた千鶴は、
突然現れたかのような斎藤に驚いた。
「今夜、客が1人増える。飯を頼む」
「あ、そうですか。わかりました。
……それを言いに戻ってらしたんですか?」
「………………」
斎藤は返事をしない。
「はじめさん?」
斎藤の姿が消えた。
「………………。
…………。
………………。
きゃエエェェェ!」
千鶴の悲鳴に、原田と、勇三郎を抱いた土方が飛んできた。
「どうした?!」
「はじめさんの幽霊出ました!」
「……なんだ、幽霊か」
昨日からの騒ぎで、原田はすっかり慣れた顔である。
「おい待て。斎藤は生きてる」
土方が原田に言った。
「じゃ、生霊って奴だな」
「……佐之………………」
あっさり言う原田に、土方は言うべき言葉が思いつかない。
「何の用だったんだろうな?」
「……今夜、お客さんが増えるからご飯の用意をって……言ってました」
「ふぅん。斎藤の奴、新しい技を身につけてんな」
原田の言葉に、千鶴と土方は、ただただ原田を凝視した。



そういう話かーっ?!



そういう話ですかーっ?!



土方と千鶴が固まっていると、
原田は千鶴に爽やかに笑った。
「ゆう坊は俺たちで見てるから、
飯の支度、頑張れよ」
「………………はい」
「さ、ゆう坊、遊ぶぞー」
土方の腕から勇三郎を受け取って奥に戻っていく原田に、
土方と千鶴は1度視線を合わせた後、
黙って日常に戻った。



***********



その夜、斎藤はつっちーと一緒に帰って来た。
「……千客万来っつーか、万客万来だな。
こんだけゴチャゴチャと来てるのは初めて見るぞ」
提灯の暗い灯りでも判るほどにくっきりと苦笑いをして、
家の方を見ながらつっちーが言った。
「……やはり、そうか」
「悪いものは……今は無さそうだけどな。
昨夜は少し来てるな。
何があったんだ?」
「……飯を食ってから話そう」
「おっ!飯、飯!」
斎藤の後ろから、つっちーはいそいそと家に入って行った。
広間に通されると、土方と原田が帰りを待っていた。
斎藤とつっちーを笑顔で出迎えた。
斎藤は着替えに引っ込んだ。




着替えに寄り添う千鶴が、斎藤に話し出した。
「今日、朝、はじめさんが来て、
お客さんが増えるって言って
消えちゃったんです」
「あの男、よくわからん技を使っていた」
「……そうなんですか……。
便利ですけど、心臓に悪いです」
「俺も初めて見た」
戻ってきた紙は1度斎藤の形になり、
報告をしてまた紙に戻っていた。
「ただのお盆と言うには、なんだか奇妙な事になっていますね……」
千鶴が少し考え込むような顔をした。

泣く子も黙る新選組幹部だった者達が
ガン首揃えて幽霊騒ぎでヘトヘト。
良い面の皮だ、と、斎藤の肩は落ちた。




つっちーは通された広間で、空いている場所に座った。
「あれ。まだ居るんだな」
つっちーは土方を見て開口一番そう言った。
「ご挨拶だな」
土方は一睨みした。
「いや、あんたじゃなくて、よ。
その光」
つっちーは空いている所に座り込みながら答えた。
土方の周りにはまだ橙色の光が飛んでいる。
つっちーは光をじっと見た後言った。
「……ああ、あんたに来てたのか。
昨夜襲われただろ」
「どれの話だ」
「そんなに色々起きたのか。
ごろちゃんが疲れてるハズだな。
でもおかしいな。
弱いのがちょっと来た気配があるだけなんだけどな。
守りが固いから、
すぐ追い出されて大したことは出来なかったと思うんだけどよ」
「……斎藤が疲れてた?」
つっちーの言葉を拾ったのは原田。
疲れていても疲れを見せないのが斎藤なのに、と首を傾げる。
「疲れてたっつっても、顔には出てねぇけどよ」
「?」
「俺たちがギャーギャーやってたら妖刀一閃、
静かにしろの一言、だぜ。
腰が抜けるかと思ったよ。
相当機嫌悪いんだと思った」
「あいつ、気を張ってる時は容赦無ぇからなぁ」
原田が苦笑のような顔で、明るい声を漏らした。
「そういう話じゃ無ぇよ……。
俺たちにはあの刀は悪夢だ」
「?」
「あれを近くで抜かれるとな。
体力っつーか、力をごっそり削られる、
持っていかれる感じなんだよ。
喧嘩する気も起きねぇ。
ごろちゃんが機嫌悪かったせいだろうなぁ……。
前見た時と違って敵意満々。
主を守る妖刀なんざ洒落にならねぇよ。
そんなもんをごろちゃんの腕で向けられてみろ。
タマが縮んだ」



興味を持った原田は、斎藤から刀を借りてきた。
広間で抜く。
別に何も無い、ただの刀だった。
「……平気で持つなよ、そんなもん」
嫌そうにつっちーが、少しでも離れようと身を反らしながら言った。
「普通だけどなぁ?」
土方に渡す。
「細いな。あいつらしい」
土方は嬉しそうに刀を見ている。
「はあ?」
細い刀が何故斎藤らしいのかわからず、
つっちーは間の抜けた声を漏らした。
「刀ってぇのは、実は消耗品でな。
無理させて曲がったり折れたりすりゃ使えねぇ。
池田屋ん時は酷かったな。
でも斎藤の刀は刃こぼれ程度だっよな、佐之?」
「ああ。砥ぎにしか出して無ぇ」
「一振りを長く使えるのは刀に無理をさせねぇ動きをした証拠だ。
細いのは、何度も研いでいるからだ。
見ろ。焼き刃が随分減ってる。
重いな。肉厚な身だ。
地金もよく締まってる。
実践向きだな。
さすが目利きの斎藤が選ぶ刀だ」
「峰がひでぇな」
「相当器用な使い方してたんだな、あいつ」
「……戊辰の時は、折っちまったら最後だったからなぁ。
薄い刃より峰を使ったんだろうな」
「反りがあるから相当な負担だろう」
「一つ一つの凹みは酷く無ぇ。
受け流すのが相当上手いんだろうな」
「体小させぇからな。受け流すのは上手くもなるだろう」
「反りに関しちゃ別だろ。
普段の隊務じゃ、んな事はしてなかったぜ」
原田は記憶を手繰った。
「そうだな。
じゃ、戊辰からか。
抜いて、反りを計算して峰で受けて刃で斬る、か。
おもしれぇなぁ。
どんな動きをしやがったんだかウズウズすらぁ」
「ここじゃやめてくれよ。
またおっかさんに叱られる」
「そうだな。けどよ、見てぇよな」
「あんたも剣術馬鹿だからな」
「お前は見たくねぇか?」
「……見てぇな。
今は忙しそうだから、落ち着いたら話してみようぜ。
ただし、俺ぁ防具無しじゃ御免だ。
いや、あっても死ぬわ。
最近振って無ぇ」
「俺は防具あっても嫌だぜ、こんな刀の使い方する奴とは」
「我流全開のあんたが言うか。
じゃあ試合の相手居ねぇじゃねぇか」
「新八にやらせろ」
「その手があるか」
「ぽりすの連中、さーべるっての使ってやがるだろ?
正気じゃ無ぇな。チラッと見たがペラペラだ。
示現流じゃ、てめぇの力で折れるだろ。何考えてやがんだか」
「三尺棒持ち歩いてんじゃねぇか」
「棒っきれじゃ……っと。飯のお出ましだ」



着替えた斎藤も手伝い、膳が並べられていくのを見ながら、
つっちーは、新選組元幹部たちのする、
自分の知らない世界の話を
目をパチパチさせて聞いていた。
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