◆ 続・妖怪ハンター“S”

□8.千客万来の事【3】
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【盆 7】



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つっちーの骨折りに礼を言った斎藤に、
つっちーは食事と酒と報告書で手を打つよと言って
二頭の馬を引いて帰った。

男たちは暫く飲んでいたが、やがて蚊帳の中で夢の世界の人になった。

土方は相変わらず橙色の光をまとい、
その美貌と相まって、眠っている様は幻想的だった。



***********



「う……うう……うわぁ……っ」

深夜。
土方の悲鳴に、横で寝ていた原田が飛び起きた。
土方は布団の上で上半身を起こし、肩で息をする。
暑さの汗と共に、いやな脂汗が吹き出してきた。
「……トシさん?」
隣で寝ていた原田も、橙色の光に浮かぶ土方に、
気遣わしげに声をかける。。
「……すまねぇ、ちょっと嫌な夢見た」
「飲みすぎたんだよ。忘れて寝ちまえ」
「そうだな」
土方はまたごろりと横になった。
原田はあっという間に眠りに戻って行った。
その定期的な呼吸に、土方も眠りに誘われる。

うとうとしはじめた時、どむ、と、胸に重さを感じた。
夢うつつだったため、その重さはさっきの夢と重なり、
戦場で大砲を被弾し、生き埋めになる夢になっていった。



息が……っ



土方は胸の重さに目を覚ました。

土方の周りには橙色の幾つもの光がまとわりついているから、
部屋の様子は明かりをつけなくてもわかった。



……てめぇかっ。



土方は胸の上に乗った黒猫を、手で追い払った。
また乗られないように横を向くと、背中にぴったりと寄り添ってきた。



……暑い。



「おい総司。何がした…………」

総司が何をしたいか。

考えるまでもない。
自分に嫌がらせをしたいに決まっている。

土方は黒猫を蚊帳の外に放り出した。
すると、何か居るのか、バタバタと走りまわりだした。
土方は眉間に1本皺を刻んだ。
「おい。原田も居るんだ。静かにしろ」
薄く目を開けると、
蛍のような光を放つ幾つかの光の塊を追いかけ回している。
柔らかな橙色のものとは違い、青白い光。
「ったく……」

土方は目を閉じたが、黒猫が走り回るのが気になって眠れない。
もう一度目を開けた。
青い光がふわりと土方の方へ寄ってきた。



またか。



そう思って、目を閉じようとした。
閉じかけた視界で、青い光に向かって、橙色の光が一斉に飛んでいった。



……なんだ?



青い光は橙色に飲み込まれ、消えた。
「にゃ」
すると、黒猫は小さく鳴くいて、
追い出された蚊帳の中にまた入ってきた。



……チッ。



土方が心の中で舌打ちすると、
黒猫は、横を向いた土方の頬に前足を、たしっ、と置いた。
黒猫に踏まれ、見下ろされ、
ばかにされたようでイラッとした。
土方は黒猫の足を振り払った。
黒猫は目の前で座ったが、どうにも馬鹿にした目つきで見下ろしてくる。
沖田にされてさえイラつくその目つきを
猫にやられれば苛立たしさ倍増。



……中身が総司なら、相手にしたら負けだ。



土方は無理に目を閉じた。
ずっと黒猫の視線を感じる。
寝返りを打って、視線を避けた。
すると猫はぐるりと回って、また顔の前あたりに座る気配。
もう一度寝返りを打つ。
また猫に回り込まれる。



……目を開けたら負けだ。



土方はイライラしながら目を閉じ続けた。
すると今度は、前足で、ちょいちょい、と頬をつつかれる。



……目は開けねぇぞ。



眉間の皺を2本に増やしながら、目を閉じ続ける。
また頬をつつかれる。
イライラしていると、どこからか、人の肉の焼けた嫌な匂いが漂ってきた。



……火事かっ?!



これには土方も飛び起きざるを得ない。
飛び起きた。
と、目の前に視界一杯、焼けただれた巨大な顔に覗き込まれていた。

「っっっ!!! 」

人では有り得ない大きさの焼けただれた顔に、
土方は声も出せず驚いた。
焼けただれた顔は、にやぁ……と笑った。
……ように、見えた。
肉が溶けているのでわかりにくい。

顔は、すぐに消えた。
すぐ消えたその顔に、錯覚だったかと思った。
だが匂いがまだ薄く残っていた。

土方は肩で息をしながら原田を見た。
落ち着いた寝息をたてている。
猫を見ると、土方の頭上の何も無い所を、座って見上げている。



……何なんだよ……。



土方は息を整えながら、
バクバクと大きな音をたてている自分の心臓の音を聞いた。

静かに枕元の刀を手に取った。

「ま、幽霊斬っても罪にはならねぇよな」
土方の独り言に、猫は土方を見上げた。
ニヤリ。
土方は顔を歪めた。

「猫を斬ってもよ、こいつも罪にゃあならねぇよ、なぁぁぁっ!」

土方は、言いざま、蚊帳を裂きながら猫に刀を振り下ろした。
蚊帳はゆれ、大きく開いた場所から黒猫は飛び出していった。

「待ちやがれ、総司ィィィィィ!!」
土方は、猫を追って走って行った。
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