◆ 君の為なら神にでも(現代パロ)完結

□5.打上
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《21》




話し合いの結果、皆の誤解は放置する方針となった。
炊き出しタイムも大掃除も無事に乗り切り、千鶴と斎藤は帰り支度をしていた。
「行くか」
「はい」
荷物を持ち、戸口へ向かった。
「お。帰るのか?」
この道場、試衛館の副館長土方が斎藤に声をかけてきた。
「はい。今回は連れが居ますので失礼します」
「お邪魔いたしました……え?」
斎藤の後ろで頭を下げた千鶴が顔を上げると、斎藤が見えなくなっていた。


「まさかこのまま帰れるとは思ってないよなっ?斎藤、はじめくーん?」
「つっ」
「斎藤は頭良いもんな、思ってないよなー?」
「ぐっ」
「僕たちがどうして今まで大人しくしていたか、わかってるよねー?」
「うっ」
「わざわざ連れてきたんだ、紹介くらいはしてくんだろ、斎藤?」
「い…っ」
「はじめ君もすみに置けないよねー」
「痛っ」

殺気立った大きな背中(と、1つの小さな背中)の人垣の向こうに、斎藤は消えていた。
斎藤の呻き声も聞こえるのだが、何が起きているのか。
無事なのだろうか。
千鶴は目を見開き、事態を見守った。


************



ずらりと並んだ5人の男と、千鶴は対峙して立っている。
男たちと千鶴の間で、斎藤は横腹の辺りをさすりながら一人なぜか正座している。
先程の呻き声は、やはり何かをされていたのだろうと千鶴はやや心配になった。

正座の斎藤が男たちを紹介していく。
「こちらが副館長の土方先生、背の高いのが原田先生、隣が沖田先生、その向こうが藤堂先生。永倉先生はもう会ったな」
「雪村千鶴と申します。
宜しく、お願いします」
千鶴は紹介された面々と名前に強ばりながら、頭を下げた。

皆、似ていた。
斎藤ほどではなくとも、似ている。
本人が生きている筈がないし、生きていてもこんなに若い筈がない。
そっくりな、別の人たち。

見知った人たちに安心して良いのか、ずいぶんと未来に来た、
自分に起きているこの事態に恐怖すべきなのか。
千鶴にはわからない。
ただ、斎藤に迷惑がかからないようにしなければ、とだけ自分に念をおした。

「ふぅん……」
小さく声を出したのは沖田。
出会って間もない頃のような冷ややかな眼差しで千鶴を見てきた。
「ま、宜しくな」
そう言った土方は、他人行儀な瞳ではあったが、刺々しさが少ない。
「千鶴ちゃーん」
と、手を振ってくれる永倉は、記憶とあまり変わりがない。
笑顔を向けてくれている原田は、記憶より少し落ち着きがある気がした。
「かっわいー……」
身を乗り出してくる藤堂も、明るい瞳が記憶とほぼ同じ。
「なあ、はじめ君! この子、オレに譲らない?!」


……へ?


「バカを言え!」
千鶴が反応するより早く斎藤が言い切った。
「えー。けちー」
「ふぅん……?」
沖田の目が斎藤に向かい、ニヤリと笑った。


あ。あの目は……


「ずいぶんと大事みたい?」
斎藤をからかうように沖田が言った。
斎藤は、ふいっと沖田から顔を逸らす。


……うわぁ……。
あの頃とおんなじ……


斎藤と沖田の関係性を、千鶴はそう見て取った。

「さて、と。斎藤がわざわざ御披露目しに連れてきてくれたんだ。
斎藤のメンツの為にも、カノジョの前でいたぶるのはこの辺にしとこうぜ」
「そうだな。な、千鶴ちゃん、ところで、お姉ちゃんが居たりしない?居たら紹介してほしーなー」
「あ、オレは双子とか妹とかでも!」
原田、永倉、藤堂が、千鶴を会話に入れながら軽口を叩きあう。
この辺りも記憶と同じ。
千鶴が土方に目をやると、斎藤を立たせていた。
「んじゃ、ま、打上といくか」
「時間、早くねぇか?」
「源さんとこに電話入れとくか」
「だな」
土方と原田の会話に、千鶴の胸が跳ねた。
“げんさん”。
こんなに記憶と同じ人が揃っているなら、もしかしたら。
もしかしたら。
また会えるのかもしれない。
優しくて、よく面倒を見てくれて、会えなくなってしまったあの人に。
千鶴は斎藤に小声で尋ねた。
「斎藤さん。げんさん、って、井上さんですか?」
「ああ。知っているのか?」
「……皆さん、同じなんです」
千鶴の表情は硬い。
「新選組?」
「はい」
「……そう、か」
斎藤は何かを考え込むような顔になった。
「こんな所でまでイチャイチャしないでよ、はじめ君!」
真面目な顔になっていた斎藤に、後ろから藤堂がラリアットをかますように肩を組んできた。
「イチャ……っ、していない!」
斎藤の目元が僅かに血色良くなった。


……また照れてる。


藤堂と斎藤を見て、千鶴は小さく笑った。
微笑を浮かべながらも、千鶴の胸には小さな恐れが残っている。


どうして私は、ここに一人飛ばされたの。
どうして皆さんが皆さんでないのにここに居るの……?


わかるはずも無いが、考えずにはいられなかった。
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