◆ 斎藤×千鶴(転生パロ) +SSHL

□SSHL【4】
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【SSHL 16】



クリスマスイブ。
斎藤の不機嫌は最高潮を迎えようとしていた。
帰ってきた時の迫力が半端無い。
鋭い視線だけで腰が抜けそうな程だ。
母親によると、お店では能面のように感情が見えないらしいので、
帰ってきて気が緩むのだろうと思う。
そう思うと、自分も“斎藤家の一員”だと感じられる。

多分自覚もあるのだろう。
斎藤はここの所、部屋にこもる時間が長い。
だが今の千鶴は前のように寂しく思う事は無く、
消化が良くてボリュームとビタミンがある料理を用意して待っている。
食卓は相変わらず静かだが、寂しくもない。
自分が用意した食事を勢い良く食べてくれるから。

体の事を思うと、自然、和食が増えた。
斎藤はどうやら豆腐が好きだったらしい。
体のため!と、奮発して、美味しそうな豆腐で餡掛けを出したらお代わりを所望され、
千鶴の分のつもりだった豆腐も提供した。
豆腐料理がある時は真っ先に箸をつけるか、最後までとっておく。
好物を楽しみにする子供のようでカワイイ、と密かに思っている。

クリスマスイブの夕方、母親と斎藤を見送った千鶴は
念入りに目覚まし時計をチェックした。
明日はクリスマス。
帰ってきた斎藤にクリスマスプレゼントのマフラーを首にかけて
驚かせようと思っている。
ちょっと怖いけど。
出迎えたいから、早起きをするつもり。
そして二人が寝ているうちに、予約した小さなケーキを取りに行って、
いつもより少しだけカラフルなクリスマス風の食事を出して、
最後の一日を乗り切って貰おうと思う。



……恋人たちのクリスマスも良いけれど。
こうして、誰かの為に何かを出来るって、豊かだな。



二人はどんな反応をするだろうか。
少なくとも、無駄な事をしていると呆れるような人たちでは無いと思える事に感謝した。
ふと、短い間義父となった人を思い出してぶるりと身震いをしたが、
強引に、頭に浮かぶ顔を斎藤と斎藤の母親へと切り替えた。



……お母様も斎藤さんも、人の心が解る人……。



改めて、良い縁を得たと思う。
心が温かくなった。
母が生きていた頃は母が心尽くしのクリスマスをしてくれた。
母もこの時期は忙しかった筈なのに。



……今はお二人が、私の、家族……。



そう思うと、目が熱くなって、鼻の奥がツンときてきた。
幸せだと思う。
ほんの少し前まで、この家で自分の居場所を見つけられなかったのが嘘のようだった。



……私、何を見ていたんだろう。



斎藤の母親の態度はずっと変わっていない。
斎藤も、ダイニングテーブルで勉強をするようになっただけで
態度自体は変わっていない。
変わったのはきっと自分。
手遅れになる前に気付けて良かったと思った。



と、千鶴は今現在思っているが。

実は斎藤の母親は、かーなーり、焦れながら見守っていた。
嫁として家に連れ込んでおきながら、千鶴を放ったらかしの我が息子。
千鶴の顔が曇っていくのは大人として簡単に見抜けた。
かなり自分を抑え込んでいるのも見抜いていた。
我慢に我慢を重ねている様子は健気でもあり、
また年の割には見上げたものだなどと千鶴を評価していた。
他人に理解されにくい息子なのは百も承知。
そんな、男としては手間のかかるタイプの息子との関係から
逃げようとしないのはいっそ天晴れ。
息子は意外にも、かなり良い相手を見つけたものだと思ったりしていた。
部屋を別にしたのはまあ許そう。
千鶴はまだ高校生だし、息子は節度ある方だと思うが、それでも男なので、
取り返しのつかない事になる位ならこういう自衛の仕方も致し方ない。
だが千鶴を全く構わないのはどういう了見か。
女の扱いを知らないにも程がある。
クリスマスが近かったので制裁を加えるのを控えていただけだった。
クリスマスが終わったらみっちり締めあげよう、などと思っていたりした。
しかしここの所千鶴は急に明るくなり、落ち着きも見せてきた。
自分は何もしていないので、二人で解決していっているという事なのだろうと思う。
予定の半分位の制裁で済ませてやろうと思う、今日このごろである。
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