◆ 斎藤×千鶴(転生パロ) +SSHL

□SSHL【2】
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【SSHL 5】



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その夜も静かな夕食だった。
斎藤の家ではテレビをつける習性も無いし、斎藤は自分からはあまり話さないので、
千鶴が黙ると沈黙が落ちる。
相変わらず、斎藤は信用出来るとは思うものの、
斎藤とはどんな事に対してどう思う人なのかがよく分からない。
千鶴は最近、自分のお喋りした事に対して斎藤が本当はどう思っているのかが気になり、
あまり喋れなくなっていた。
「千鶴」
「はい」
千鶴は作った笑顔を斎藤に向けた。
「今日は何も無かったか?」
「……はい、特には」
「先生は変わりないか?」
「あ、はい。クラスの皆には名字が変わった細かい事情は言っていませんから
先生たちが心配したような雰囲気にはならなくて。
今では先生たちも昔みたいに接してくれます」
「そうか」
「はい」
千鶴が笑顔を返すと、テーブルにはまた沈黙が落ちた。



……学校での子供の様子を気にするお母さんみたい。
お母さんもよくこうやって、“今日は何があった?”って聞いてきたっけ。
………………もう少し、興味津々って感じで聞いてきたけど。



斎藤は、頭は良いようだしスタイルも良いし顔も良いと思う。
だがあまり女の人に言い寄られている気配がしない。
斎藤は無口だから自分が気付かないだけかもしれないが、
あまりに素っ気ないから寄りつけないのではないかと千鶴は思った。



……話が続かないんだよね……。
こう、楽しい雰囲気にならないって言うか……。
もう三ヶ月経つのに距離が縮まった感じがしない。
青森の時って、どうやって過ごしてたっけ?
斎藤さんのどこに惹かれてたんだったけ?



千鶴はうつむきそうになる頭を何とか上げて食事を続けた。
「千鶴」
「はい」
「クリスマスなのだが、」



クリスマス!



恋人たちの浮かれるイベントの響きに、千鶴は知らず知らず顔を輝かせていた。
その千鶴の顔を見た斎藤は、そっと手元へと視線を落とした。
「……すまない。母の店が忙しくなるので毎年手伝いに入っている。
時間が取れないから、大した事が出来ない」
「あ」
店を見せて貰った事があったが、大人の恋人たちが静かで幸せな語らいが出来そうな、
お洒落で落ち着きと高級感があり、ちょっと隠れ家的な店だった。
クリスマスなら客は集まるだろう。



クリスマスは無しかぁ。
仕方ないよね、お仕事なんだもん。



千鶴は何とか気持ちを立て直した。
「私、冬休みに入りますし、お手伝いしましょうか?
あっ、もちろん裏方で」
「いや。あんたは気にせず女友達と遊んできて構わない」



“女”友達となら。



さり気なく一言を盛り込んだ斎藤は千鶴の反応を伺った。
「っ?!」
千鶴を見た斎藤は息を飲んで目を見張った。
千鶴の大きな目に涙が溜まりかけていた。



また。
また、私はお客様……。
斎藤さんやお母様が忙しい時にも何もやらせて貰えない。



押し殺してきた疎外感が突き上げてきていた。
「……そうですか。友達は彼氏と過ごす予定立ててましたから、
私、斎藤さんのお邪魔にならないように気を付けますね」
千鶴は涙を飲み込んで笑って見せた。
「邪魔になど……っ。すまないと思っているっ」
「そんな。お仕事ですし、斎藤さんもお忙しいんですから、私の事は……」
斎藤を見ては泣いてしまう。
そう思った千鶴の目は泳いだ。
視線の行き先を探してさまよった千鶴の目は、まだ半分も残っている夕食に落ち着いた。



……もう食べる気になれないけど、作って貰ったものだし食べなくちゃ。



そう思うが、手は動かなかった。
斎藤は動きを止めて、今にも泣きそうな千鶴を見詰めていた。
そして我に帰ると急いで取ってつけて言い足した。
「クリスマスは盛大には出来ぬがっ、前に、その、前倒しになるがっ、」
「いえ、いいですっ。無理して、忙しい時に体調崩したりしたら大変ですしっ」
千鶴は取り繕った笑顔を斎藤に向けた。
今にも泣きそうな目で笑う千鶴に、斎藤は強い焦りを感じた。
「ならばっ、クリスマスの後になるがっ、」
「いいです!本当に!」
綺麗なイルミネーション、クリスマスの飾り付け。
そんな華やいだ雰囲気があるからクリスマスは盛り上がるのだ。
ロマンチックな雰囲気に、甘い空気。
千鶴とて憧れはある。
いつか彼氏と、白い息を吐きながらキラキラする街を手を繋いで歩いて、
顔を見合わせて笑い合う。
暖かな部屋で笑い合う。
いつか自分にもそんな日が来ると思っていた。

クリスマスを過ぎれば一斉に撤去されるイルミネーションや飾り付け。
街はすぐに年末や正月の準備を始める。
そんな中でもクリスマスを祝えるような信心も無い。
ましてや皆が楽しんでいる時に斎藤は働くというのに、ワガママなど言えない。
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