◆ 斎藤×千鶴(転生パロ) +SSHL

□SSHL【1】
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【SSHL 1】




千鶴の戸籍謄本を確認したりと多少の手間はあったが、
斎藤と千鶴の婚姻届は受理された。
土方はこっそり千鶴に、
「何も起きないと思ったから判子ついたが、
何かあったら、何か起きるずっと手前で必ず相談しろ。
斎藤たちに関係無くても、お前の学校の事でも進路の事でも構わねぇ。
俺は教師だ。必ず、だ。良いな?」
と言って、電話番号やメールアドレス、学校の電話番号などを
千鶴の携帯に目の前で入力させた。
突然の入籍騒ぎに付き合ってくれて、こんな事まで言ってくれるとは、
きっととても良い先生なのだろうと千鶴は思った。
「ありがとうございます。約束します」
「たまには近況連絡しろな?気になる」
「はい」
ニコリと笑って答えた千鶴が嬉しそうな顔だったので、
土方は多少の安心を抱いた。
「ミツさん、俺はこれで用無しだな?」
「あ、ありがとう、先生。帰れる?」
「……あのなぁ。俺は幾つの子供だよ」
「二日酔いの心配したのよ」
「グラグラしてるから二日酔いが始まるのはこれからだ。帰って寝る」
「土方先生、ありがとうございました」
頭を下げた斎藤に軽く手を上げて、土方は帰って行った。
「さ、私たちも行こうか」
母親は千鶴の腕に腕を絡ませて歩き出した。
斎藤はそれを諦めた顔で見た後、二人の後ろを一人で歩いてついていった。

車では、助手席に座るか、後部座席に乗り込んだ母親の隣に座るか一瞬戸惑った千鶴だったが、
華麗なウィンクと妖艶な微笑と共に母親にドアを閉められたので、
来た時と同様助手席に乗り込んだ。
その後部座席から声がかかった。
「はーじめー。母さん眠い。詳しい話は後でも良いー?」
「分かっている。降ろしたら千鶴の荷物を取りに行ってくる」
「あんたも夜通し走ってたんでしょ?元気ねぇ」
「休憩は、した」
「事故んないでよ?」
「気をつける」
「あの、数日分は荷物ありますから、斎藤さんも休んで下さい」
「断る」
「……はい?!」



えっ……。
こっ、断る?!
えっ。何?!
そんな重要な事っ?!



「あの男の家に私物があるのだろう?」
「学校の物とか冬物とかは置いてありますけど……」
「不快だ」
「……………………はい?」
千鶴が目をバチバチと瞬かせていると、後部座席から吹き出し笑いが聞こえた。
「あっははは!はじめあんた!すっごいヤキモチ!」
「……はい? ヤキモチ……ですか?」
千鶴は振り返って母親を見た。
「ヤキモチでしょ? 他の男の所に自分の女の物があるのが許せないって!」
大ウケしながら母親はそう言った。
「……一応、義理の父に当たる人なんですが……」
「関係無い無い! あっははは!」
千鶴が斎藤を見ると、しかめっ面だった。
だがその表情が母親の発言を否定したいものなのか、
図星をさされて顔をしかめているのか、
千鶴には分からない。
「もう数日もすれば千鶴の夏休みは終わる。
早い方が良いと思っただけだっ。
学校へも連絡せねばなるまいっ」
「あっははは!」
千鶴は納得しかけたが、母親は更に笑った。

母親のミツにははじめの理屈が言い訳だと分かる。
先の先を考えて行動する息子の頭には、
話に聞いたロリコンの義父が
千鶴の私物をどう扱うか、色々なパターンが浮かんでいるに違い無いのだ。
その中には変態行為に及ぶ義父像もあるはず。
その可能性を潰しておきたいが故に、
すぐさま千鶴の荷物を取りに行きたいと考えていると分かるので、
頭が回るのもご苦労な事だ、すごいヤキモチだ、と、笑ってしまうのだ。
斎藤は母親を自宅で降ろすと、千鶴の家へと車を走らせた。


**


千鶴の家は静かだった。
義父はまだ帰っていないのか、帰って出掛けたのかは分からない。
千鶴は斎藤と共に自分の部屋に入って、部屋を見回した。
「斎藤さん。荷物と言ってもほぼ引越しになっちゃいます。
今日中というのは難しいと思うんですが」
「着替え一切と学校関連の物、特に大事な物をまずは持って行く。
机とベッドはどうしたい?」
「どちらもここへ来る時買った物なので愛着は薄いですけど……。
それでも選んだ物なので、」
「ならば当座はこのままだ。今の家では置く場所も無い」
「あ……。そうですね、すみません!」
そう言って千鶴は真っ赤になった。



結婚、したんだもん。
シングルベッドに執着見せるのはまずいよね。
わ、私、今晩、斎藤さんと寝るのかな?
寝……。
寝……っ!!!!!



真っ赤になった千鶴に、斎藤の平坦な声が届いた。
「……千鶴。何を考えているかは想像がつくが、後にして欲しい。
当座の荷物を車に運ぶ。一時間が目標だ」
そう言うとはじめは遠慮無くクローゼットを開けた。
ざっと見渡して、衣装ケースを引っ張り出すと次々とベッドに投げ置き始めた。
「いっ!一時間ですかっ?」
千鶴は真っ赤な顔を青ざめさせた。
「段ボールか何か……っ」
「一般家庭に大量の段ボールは無かろう。ゴミ袋をあるだけ持ってきて欲しい。
ある場所は分かるか?」
「ゴミ袋……?ですか?」
「ここから車までと、車から家まで運ぶだけだ。我慢して欲しい」
「あ!はい!」
千鶴がゴミ袋を持って戻ると、はじめは目ぼしい荷物はベッドに積み上げ終わっていた。



早っ!



部屋への入口で、千鶴は思わず立ち止まってそう思った。
はじめは衣装ケースを持ってドアへと歩きながら千鶴に声をかけた。
「どんどん詰め込め」
「はっ?!」
目線でベッドを指された。
見れば、ハンガーに掛かっていた服が、ゴミ袋に入りそうな量ずつ塊にして積んであった。



要領良い。
慣れてるのかな?



千鶴が言われた通りの作業に取り掛かると、はじめは衣装ケースと共に姿を消した。
戻って来ると千鶴が作った荷物のゴミ袋をどんどん持ち出していく。
「学校関連の物は手持ちの鞄に詰め込め。
ゴミ袋では破れる」
「はいっ」



それは私も気づきました!
でもその前にランジェリーを透けない鞄に入れたいっ!



クローゼットの中の作り付けの引き出しからランジェリー類を引っ張り出す。
はじめが部屋から居なくなった隙にやろうとしたが、
鞄が足りなくなり、小さい鞄も使おうと詰め替えていた所へはじめが戻ってきた。
「うきゃ……」
千鶴は思わず荷物で隠そうとしたが、はじめは淡々と
「本はゴミ袋では無理だと言ったはずだ」
と言うと、
ざばっと鞄をひっくり返し、教科書や参考書、見える範囲にある本類を
鞄のサイズに合わせてどんどん詰めだした。



ぱ、はんつー!!!!



千鶴は慌てて少しでも隠せるよう、ゴミ袋に突っ込んだ。



慣れてるの?!
斎藤さんって、女の子の下着、見慣れてるのっ?!
私、私、旅行中の斎藤さんしか知らなかったんだ!
本当は女ったらしだったとか?!
だってカッコイイし、頭も良いみたいだし、モテない訳が無いよね?!
私、大丈夫なのかな?!
早まった?!
……。ひ、土方先生ーっ!!!



はじめは只今戦闘モード。
荷物の移動に専心しているため、ろくに見ていなかった上に
目に入っていても意識に入っていないだけ。
はじめは本類を詰めた鞄を持つと、振り返った。
「それも貸せ、……。なっ!!」
千鶴の手の中のゴミ袋の中身に、やっと気付いた。
「?」
「袋を重ねろっ!」
そう言うと真っ赤になって、少ない荷物を持っただけで部屋を飛び出して行った。
色付きのゴミ袋ではあるが、透けて何が入っているかは分かる。
「あ。なるほど」
千鶴は中身がわかりにくい程度までゴミ袋を重ねた。



……真っ赤になってた。
良かった。平気で下着見る人じゃ無くて。



戻ってきたはじめは、まだ赤味の残る顔でそっぽを向いて言った。
「……それは自分で運んでくれ」
千鶴は笑いたいのを我慢して、その袋を車へと運んだ。
車の荷台は既にかなり詰まっていた。


わー。荷物いっぱい。
本当に一時間で終わりそう。
私の荷物って多いんだな……。



多くないと思っていたが、小さな箱に詰めた写真や小物の箱なども結構ある。

部屋へ戻ると。
「大切にしている食器や思い出の品は?」
「!」
母の遺影や思い出のあるカップなどを選んで、ダイニングテーブルに並べた。
「……タオル類のストックなどは無いか?」
千鶴は返事をせずに走った。
母の入院中に増えたタオルを山にして持ってくると、
割れそうな物をはじめと共にタオルでくるんで
そっとゴミ袋に入れた。
「詰めすぎるな。重さで割れる」
「はいっ」



……頭、良い人だな……。
食器の事まで考えてなかった。
それに、思い出を大切に出来る人だ。優しい……。



やっぱりこの人で良かったんだと思いながら手早く作業した。



前は全部置いていったから持っていけるの嬉しい。
……前?
前って?



母親との引越しの時には持ってきた。



私、いつのことを考えたんだろ?



自分の感覚を不思議に思いながら手を動かした。
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