◆ 斎藤×千鶴(転生パロ) +SSHL
□北へ走る 9
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その夜。
キッチンのテーブルに座り、
長い長い前置きでたっぷり井上を混乱させた後、一は千鶴の置かれている状況や井上との関係を聞き出した。
「家が隣なんだよ。
再婚した事と、年頃の娘が居ることは、千鶴ちゃんのお母さんから聞いていてね。
お母さんは、病気持ちの自分と再婚した今の千鶴ちゃんのお父さん…雪村さんと言うんだが、その人に感謝していてねぇ」
井上は小さくため息をついた。
「ご存命の頃は大人しくしていたようなんだが…。
7月の頭頃かな、家から飛び出してきた千鶴ちゃんに家内が出くわしてね。
様子が変なんで、うちに連れてきて事情を聞いたんだ。
何と言うか…まぁ、手を出されかけたんだな」
井上は話を一度切って、麦茶を一と自分の分をテーブルに置いた。
「千鶴ちゃんはなんとか上手く立ち回って逃げていたみたいだけど……夏休みに入るのをきっかけに、こっちでアルバイトに連れて行きたいと雪村さんに話してみたんだ。
そうしたら、連れて行く代わりに伊東さんの面倒をしばらく見て欲しいと言われてね
。
まぁ、元々秘書をしていた位だから優秀な人なんだろうね。
千鶴ちゃんへのお目付け役も兼ねてなんだと思うんだが。
執心ぶりからして、最初から千鶴ちゃんを狙っていたのかもしれないと、わたしは思っているよ」
道理で井上が伊東を嫌っているはずだ、と一は思った。
議員秘書との繋がりもあるなら、雪村という人物は一筋縄ではいかないだろう。
しかし逆に使えば、もしかしたら一が考える以上に上手くいくかもしれないと思った。
「ただのお隣さんとしては、夏休みが終わったらどうしたものかと思うよ」
「親戚などの、後見人になってくれる人は居ないのですか?」
「居ないのか、知らないだけなのか…。
お母さんが重い病気になった後雪村さんとの話が出る前に色々困っていた時も、誰にも連絡しなかったらしいから、頼れる関係では無かったようだね」
それでは、後見人はこちらで用意するしか無い…。
「うちにも一人立ちしたとはいえ子供が居るから、引き取る訳にもいかないしねぇ」
やはりここがネックになったな。
公の機関を利用したり、何とか出来るとは思うが、時間がかかりそうだ。
しかしタイムリミットは夏休みいっぱい。
少し急ぐ必要があるかもしれない。
「何か名案がありそうだね?」
「一般的な法律遵守です。が。後見人の手配が難しいかもしれません」
「他に方法は?
」
「無くは無いですが…」
「おや、歯切れが悪いね?」
「婚姻の実績があれば、仮に離婚しても未成年も成人として見なされるのですが」
「はっはっは!歯切れが悪くなる訳だ」
「親の承認が必要ですが、こちらはまぁ…俺でも話し方次第でもぎ取れると思うのですが…」
井上は、淡々と語る一の顔を面白がって見ていた。
二十歳のひよっこが、権力に繋がっていると思われる、千鶴に懸想する雪村を押さえ込めると言う。
自信家なのか、頭が回るのか。
見てみたい気がした。
「斎藤君」
「はい」
「千鶴ちゃんには手を出さなかっただろうね?」
井上はからかうつもりで一に言った。
「足元が悪く、彼女はサンダルでしたので、手を繋ぎました」
はぐらかしたのかと一の顔をみつめたが、大真面目な一の顔に、虚を突かれた井上だった。