◆ 斎藤×千鶴(転生パロ) +SSHL

□北へ走る 8
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進路、というものは無いようで、二人は何となく奥へと歩いていく。
開けている方向へなんとなく足をすすめていくと、視界は白く開いた。

「…………」

二人は思わず無言になった。
開けた視界は、窪みも盛り上がりも、青いほど、白い。

石、なのか、岩、というべきなのか…。
白、と言っても、グレーや黒が混じっているのが当たり前だった世界は拒絶された。

見た事の無い、水気も、命も感じない、それでもとてもとても美しい場所だった。


ここが地獄です。
地獄の広場ですよ。


そう言われたら、そうですか、としか返事が出来ないほどの、日本とは思えない違和感だった。

「……凄く綺麗…だけど…何も無いのに…怖い、ですね…」

千鶴はすがるように一の手を取った。
一は無言だったが、しっかりと手を握り返され、千鶴はやっと眼下の光景を見直す事が出来た。

その中に足を踏み出し進んでいく。

歩いて行けば地蔵が並び、供えられたらしき風車や玩具があり、八角堂がある。
人工物の気配はあるが、なんというか…生気が薄い。

やたらカラスの鳴き声がするのがもの寂しい。
殺伐、という言葉がこれほど似合う場所は他にないだろうと思われた。

恐怖…とはまた違うものではあるが、心細さを感じて、千鶴はつい一の傍へ傍へと寄って行ってしまった。

ところが。

賽の河原、という案内の札が立っている所を抜けていくと。

いきなり、海外のリゾート地の海のような色が広がった。


静謐な、場所だった。


水面は青く青く続いている。
ターコイズブルーというのが一番近い色ではないかと千鶴は思った。
しかし水面は波がほぼ、無い。 空を映す鏡だった。
水辺ではわずかに水が揺れているが、波が寄せる様子がまるでないのが神秘的だ。

千鶴は一の手を離し、引き寄せられるように水に近づいて行った。
サンダルの中に砂が入り込んでくる。
まるで海辺の様だが、何かが決定的に違っていた。


水辺へと進んでいく千鶴を追って、一も歩き、千鶴の横に立った。
見入るに足る美しさだと、一も思った。

千鶴が、恍惚と、しかし強い目で水面を見ている。
水面の向こうには空も緑もあるのだが、千鶴の目は、水にだけ固定されているようだった。


「…静か…。…はじめさんみたい…」


うっとりと千鶴の口から洩れた自分の名に、一は目を見開いた。
水面を見たまま、千鶴の左手が何かを探して伸ばされた。
一がその手を取っても、千鶴は動かず水面に魅了されている。

どうにも、夢の男が恋い焦がれた女と千鶴が重なって、不安を覚える。
「……千鶴?」

声をかけると、やっと千鶴は一を振り仰いだ。
「すごくきれいですね、斎藤さん。 この世のものではないみたい…。
こんな綺麗な場所が、どうして恐山、なんでしょうね」

再び“斎藤さん”と呼ばれ、一は千鶴を見つめた。
千鶴の目は再び水面に戻ってしまった。
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