◆ 斎藤×千鶴(転生パロ) +SSHL

□北へ走る 7
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千鶴が思考を千々に乱れさせているうちに、タイヤはアスファルトを噛む音から砂利の音へと変えた。

千鶴が周りを見回すと、
白い石が敷き詰められた、綺麗な駐車場に車は停まっていた。

一はサイドブレーキをかけ、車を降りる。
一歩踏み出すと、ついさっきまでと比べ物にならないほど日光が強烈に眩しく感じた。

少し、まずいかもしれない。

一は車に戻りたくなったが、千鶴が興味深そうにキョロキョロしている為、言い出し難い。
せめて日陰へ、と思い、千鶴を伴って総門へと歩きだした。


「なんか…意外です。おっきい…!」
総門を見上げた千鶴が感嘆の声を上げる。
それは一も同感だった。

ここへ至る道路は狭かったのに、ガラガラの駐車場はだだっ広く、
そこから見える山門は、関東で見慣れたサイズより数回りも大きくゆとりがあるように見えた。
飾り気は少ないが、なかなかに堂々たる構えだと思う。

さぞや人の集まる事だろうと思いきや、駐車場は小さめのバスが一台と乗用車が数台だけで、酷く閑散としている。

入口付近の、アイスクリーム、ののぼりを掲げた売店も人の気配が無かった。

「意外と人が居ないですね!
お天気良いのに観光客が居なーい!」

混雑に慣れた関東の人間には、これだけでも伸び伸びした気持ちになれる。
日差しは強いが、日陰なら耐えられる暑さだと千鶴は思った。

千鶴は気持ちよくグーっと背伸びをして一の方へ振り返った。

「! 斎藤さん!」
しかし、そこに立つ一の顔色が悪いように見えて千鶴は焦った。

「日差しがきついな」
千鶴を見て、一は困ったような小さな微笑を見せた。

「体調、まだ戻っていなかったんじゃないですか?!」
「……いや。行こう」
千鶴の心配を余所に、一は歩きだした。
仕方なく千鶴も付いていく。

一は、今感じている日光への忌避感と眠さは、
体調ではなく、昨日からまとわりつかれている夢の影響だろうと気がついていた。

夢では、羅刹と呼ばれていた吸血鬼モドキに自分もなっていた。
その時の状態と同じなのだ。

夢の中の自分と、シンクロしているのだと思う。
なぜ同調しているのかはわからないが、違和感は無かった。
必要な事のように感じる。


それに昨日の昼に襲われた眠さに比べれば眠気は軽い。歩けば解消される気がした。

「斎藤さん!無理しないで下さい!」
「……日陰で話そう」
千鶴は近くなった総門の影を見やった。

「斎藤さん!」
日陰に入ったとたんに飛んできた千鶴の声は半ば怒っている。
一は左前方にある寺の建物を指差してみせた。
「あそこの方が涼しそうだ」
更に奥へ歩く一を追って、千鶴も早足になる。

建物の中に鮮やかな色の布と仏像が見えた。
中はずいぶん広い。しかし誰も居ない。

躊躇無く入っていく一を追って千鶴も本堂の中へと上がり込んだ。

一の背中は、入口すぐ右横の物影へと向かった。
そこへ、ストンと座り、壁に背中を預けた。
やっぱり辛いんだ…と、千鶴は焦って一の側へ駆け寄る。

一の側に膝をつき、顔を覗きこもうとした時だった。
「すまない、眠い。15分したら起こして…」
言い終わる前に一の体がずるりと傾き、頭が千鶴の膝にちょうど乗る形になった。

「!!」

千鶴は困った。膝枕をするのは構わないが、ここはお寺の中である。
こんなところで居眠りして良いものか…。 

しかし意識を失うように眠りに落ちた様子から、起こすのも憚られる。
人の気配は無いため、千鶴は一の頭の高さがちょうど良くなるように、膝をややくずした。

千鶴は一の頭を膝に乗せたまま、周りを見渡す。
自分達が居るのは板の間だが、数メートル奥は畳の広間だ。
ここは廊下のようなエリアなのだと思い、少し気持ちが楽になった。

落ち着くと、カラスの哭く声が聞こえてくる。その声は殺伐とした恐山という名前に似合っていると思った。

手持ち無沙汰になった千鶴は一の顔に視線を移した。
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