◆ 斎藤×千鶴(転生パロ) +SSHL

□北へ走る 5
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一は、暫く肩で息をした後、大きく息を吐いた。
そのまま布団の上にあぐらをかいて座り込む。

それから顔を左手で覆う。
手に顔の熱が伝わってきた。
かなり赤いのだろうと思う。
一はもう一度、深い深いため息をついた。


夢の記憶ははっきり残っていた。

手のひらを見てみる。
 
血は当然ついていないが、人に刃をめり込ませた感化は、はっきり残っている。

鉄の味も口の中に残っている。

千鶴の唇の感触も…。

一は慌ててその部分は棚上げした。

自分でありながら自分でない一生を、かいつまんで見た気がした。
その人生を振り返るように、一は夢の記憶を辿った。




一が肩を落としていると、ノックの音がした。
「斎藤さん、起きてるかい?」
井上の声だった。

一が扉を開けると、井上がぱっとしない表情で立っている。

「…千鶴ちゃんから聞いたんだけど……伊東さんに会ったって?」

「はい」

「…何か…言われたかい?」

一は、どの部分を伝えたものかと束の間沈黙した。
「仲良くなりたい、と言われましたが。何か失礼をしましたか?」

伊東は不快な男だったが、宿に迷惑はかけたくないと一は思っている

井上は、長いため息をついて言い出した。
「伊東さんはね、ずっと部屋で食事していたんだけど…今日からは皆と同じ場所でと言いだしてね…」

一としては関わりたくないが、それのどこが困った事になるのかわからない。
井上にとっては楽になるのではないかと思うのだが。

「…今日はいつもより少し早い夕食にしようと思うが、問題無いかい?」

やはり、極力、一と伊東を会わせたくないらしい。

「はい」
一は重ねて問うか逡巡したが、結局問い直した。
「伊東さんは…何か問題がある人なのですか?」

井上は一の顔をじっと見る。
「………君が、もっと不細工だったら良かったんだけどねぇ……ちょっとかっこよすぎたねぇ」

「……………………………………………はっ?」

女性からならまだしも、井上のような者から容姿に関して言われた事が意外過ぎて、珍しく素っ頓狂な声が一の口から洩れた。

「あの人はねぇ、男の子が好きな人でねぇ…。どうやら君を見て気に入ったようだねぇ。
…元々は偉い政治家先生の秘書だったらしいんだけど、このまえの選挙で大負けしてから、ちょっと…心の方が、ね。
それでお預かりしていたんだが…。
私も気をつけるけど、君も気をつけるんだよ?」

はぁ、と井上は長い息をついた。

「夕食は5時半に用意しておくね」

一は辛うじて一つ頷くと、新しく知った事実を扱いかねて、呆然と沈黙した。
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