◆ 斎藤×千鶴(転生パロ) +SSHL

□北へ走る 4
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◆◆◆◆◆◆


朝食を終え部屋に戻ったものの、日が昇るにつれだるくなった。
日差しが痛い。

一はカーテンを閉めた。

シャワーを使っているうちに畳まれていた、部屋の隅の布団をひき直した。
その上にごろりと横になる。

熱は無いようだが、強烈な眠気が来る。
昨夜眠れなかったせいだろうか。
眠っても、誰にも迷惑はかけないと判断して、一はそのまま目を閉じた。



水色。
水色の服を来た男らしきものが、かがんでいる。
それが、振り返る。

口元が赤い。
男の向こうに人間が横たわっている。
男の口の赤さは血だとわかる。

………吸血鬼?

一はそれをただ見ている。

が、その赤色から目が離せなくなってくる。
赤色は、とても美味しそうなものに見えてきた。

欲しい。 自分も、あの赤い液体が欲しい。
しかし、ダメだという強烈な自制心が湧いてくる。
あれは、口にしてはいけないものだ。


次の瞬間、場面が変わった。

体中が弾けそうな感覚と、心臓に強烈な痛み走り、一は思わず胸のあたりの服を掴む。
さいとうさん、と、悲鳴のような女の声が聞こえる。

その女が一の体を支えるように掴む。

この辺りで、一は自分が夢を見ているのだと気付いた。

必死な様子で自分を抱きとめる女は小さくて、よりかかったら潰しそうだと思った。
精一杯足に力を入れて身を支える。

その女の首筋が目の前にある。
その奥に血があるのだと感じる。

この首を引き裂けば、あの甘そうな液体があふれ出るのだと思うと、衝動に流されたくなる。

………最近、吸血鬼の映画など見ていないのだが。なぜこんな夢を?

頭の片隅で冷たく自分を見る自分がいる。

血を求める衝動は強くなるが、それを拒絶する強い気持ちがある。

守りたい。絶対に、傷つけない。
自分でない自分の強い思いが流れ込んでくる。

………ああ、この自分は、この女を大切に思っているのだな。
そう思いながらも、痛みは体中に回り、強くなる。

さいとうさん、さいとうさん。

女が何度も名を呼ぶ。



「斎藤さん? 斎藤さん! 開けますよ!」
名前を呼ぶ声と、扉が開かれる音が耳に届いた。

ああ、嫌な夢だった。
一は少しだけ目を開いた。

「斎藤さん、大丈夫ですか?!」

千鶴が、心配そうに覗き込んでいる。
夢の女と千鶴が重なった。 
うつぶせで寝ていた一は、両腕をついてゆっくりと体を起こした。

「…すまない。寝ていたようだ。何用だ?」

千鶴は答えず、斎藤の顔を覗き込んでいる。

「…お昼の用意が出来たので呼びにきたのですが…苦しそうな声が聞こえて…」

「ああ、夢を見ていた」

ただの夢とは思えなかった。 扉の外までうめき声が聞こえたのだ。
顔が白い。 しかし頬だけが薄く赤い。

「…熱が上がっているようです、体温計もってきます」
「いらない」

一が答える前に、千鶴は部屋を出ていた。




「…36度9分…」
熱があるような無いような、微妙な数字に千鶴は顔をしかめた。

「だから、大丈夫だと言ったろう」

「…………」

千鶴の困ったような顔を見て、もっと何か言ってやりたいと思ったが、頭がぼんやりする。
平熱が低い一には、37度近い熱は結構なだるさだったが、それは言わない。

「…大丈夫に見えない人が大丈夫だと言うと、周りは余計気になるものです…」
気遣うような上目づかいで見られて、一は既視感を覚えた。

「…前にもそれを言われたか?」

「???」

小首を傾げる千鶴の様子からすると、言われていないらしい。
千鶴に言われたことがあったような気がしたのだが。

「…夕食まで、大人しく休む。飯の時には起こしてくれるか」

「…はい。…辛いときには、早めに言って下さいね?」

かすかにうなずき無言で掛布団をひっぱり潜り込む一を見て、千鶴は立ち上がる。

暑くないのかな? と思うが、布団は自分への拒絶のように感じて大人しく部屋を出た。
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