◆ 斎藤×千鶴(転生パロ) +SSHL

□北へ走る 2
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千鶴が鎮痛剤と冷水を入れたポットを持って一の部屋へ戻った。
 扉を何度もノックし、声をかけたが返事が無い。

「斎藤さん? …すみません、扉、開けさせて頂きます」

五センチほど扉を横に引いた。
倒れるように布団に横たわっている姿が見え、千鶴は慌てて中へ入った。

「斎藤さん?!」
薬とポットを部屋の隅に置かれたテーブルに置き、斎藤の顔を覗き込む。

「……寝て…るんですか?」

一の反応は無い。しかし、思ったより呼吸は安らかに感じた。
前髪の下に手をくぐらせ、そっと額に手を当ててみる。

「…微熱…くらい…ですよね?」

自分が触れたために目を覚まされたら恥ずかしいな、と思い、千鶴は小さな声で言ってみた。
反応は無い。

眠れるなら、薬よりも寝た方が良いよね、と、千鶴は自分に確認した。

鞄を持っている一の手をそっと外し、カバンは部屋の隅へ移動させた。

顔色は、少し白い気がするが、もともとの顔色を知らない。
けれどそれほど重症にも感じなかった。

それよりも。

……あれ…綺麗な顔…。

芸能人のような華やかさはないが、すっきりと整っていた。

普段男性の顔をこんなにじっくりと観察することなど無い。
眠っているの良い事に、少しの間千鶴はその顔を見つめた。

整った顔を間近でじっくりと見ていると、ドキドキしてくる。
元気になって、この綺麗な顔が笑ったら良いな。と、思う。

「…早く良くなりますように…」

おまじないをかけるように千鶴は呟いてみた。
千鶴は足元に丸まっていた薄い夏布団を掛け直し、部屋を出ようと立ち上がった。

ふと、靴下が目に入る。

…脱がした方が…いえ、でも、お客様だし…でも…。

自分が靴下をはいたまま眠るのが嫌いな千鶴は、脱がしてあげたい欲求がむくむく湧いてくる。

「…………具合も悪いんだし、体は楽にした方が良いよね?」

千鶴はそっと靴下を引っ張ってみる。
一は身動ぎもしない。

大丈夫だと見て取って、千鶴は靴下を引っ張って脱がし、鞄の横にそろえて置いた。

千鶴は満足して、そっと部屋を出ていった。


◆◆◆◆◆◆



一が目を開くと、周りは薄い暗闇だった。

右のポケットを探るとスマホがまだあった。
引っ張り出して時間を見ると、六時半。電池の減り具合から見て、翌朝という事は無さそうだった。

左のポケットにはキーケース、後ろのポケットには財布が入ったままだ。

それらを取り出し、枕元に置き直す。

そして一はゆっくり身を起こし、布団の上に座ってぼんやり周囲を見た。

ポットと薬。
鞄が端に置いてある。靴下も。

眠っている間に誰かが来たんだな、と思った。

薬を飲もうかと思ったが、頭痛はかなり引いている。 熱も…多少はあるが、薬が欲しい程では無い。

一の視線は靴下に戻った。 
自分で脱いだ記憶は無いから誰かが脱がせたのだろう。
この宿には、面白いお節介をする者が居るのだな、枕返しのような妖怪だったら面白いのだが、と些か可笑しく思った。


体が軽くなったと自覚すると、今度は腹が減っている事に気付いた。

食事つき、と言われていたことを思い出し、一は部屋を出た。
横開きの扉を開けるとスリッパが揃えて置いてある。

少しそれを見た後、、一は素足のまま廊下へ踏み出した。
木の床が素足に気持ち良い。掃除もしっかりされているらしく、ざらついた感じは無い。
一は気持ちよく来るときに上った階段を降りた。
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