◆ 斎藤×千鶴(転生パロ) +SSHL

□北へ走る 1
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斎藤一は、黒いアルファードのハンドルを握って北へ走らせていた。
八尾比丘尼、比丘尼、不老不死、若返り、まつろわぬ民、鬼、妖…。
そんな伝承を求めて、夏休みは日本を巡る。

大叔父からのお下がりだが、まだ三年しか経っていない車だ。
20歳のただの大学生の斎藤がこんな車に乗れるのは、一族のお蔭だった。


斎藤一は、今まで特段不幸を感じはしなかったものの、母子家庭、先々代の妾腹であった。

父は警察官僚の藤田家の一門。

本体なら一族から嫌われてもおかしくないところであったが、母は…やや変わり者であったらしく、危険視されなかったようであった。

一本人は非常に優秀でありながら寡黙で一歩引くところがあり、将来性を見込まれているのが現状だ。

さすがに明治以来の一族ともなると、ゆとり教育の成果が悪い方に出た我が子より良い方に出た一の方が利用価値が高いと見切っているらしく。
一への風当たりも温かった。

色々あるものの、取り立てて裕福な暮らしではないが困窮も無く、このお下がりの車のようにたまに僥倖もある。


自分では恵まれていると思っている。

一は今、車に布団と着替えといささかの食糧と簡易なキャンプ道具を乗せて、奇妙な伝承を持つ土地を探してフラフラと出かけてきているのである。

一がこのような話に興味を持ったのは、高校時代の恩師が夏の古典の授業中に、怪談話の代わりに持ち出した話だった。

鬼、あやかし、という言葉の響きにものがなしさを思った。 
それからなんとなく、不思議な話のある場所へ行きたいと思うようになった。



◆◆◆◆◆◆


一は、福島を抜けた辺りからいささか体調が悪い事に気付いた。

もう少し、もう少し、と走らせ、結局青森まで走りついた。

今回は下北半島を目指していたのだが。
青森に入ってしばらくの辺り、もうひとっ走りしたいと思う少し手前辺りで、頭痛とぼんやりした感覚に、運転に自信がなくなってきた。

車を止めて車中で休むか、宿を取るか。

前後に車の気配も見えぬ道で、一は考えながら、まだ車を走らせている。

頭が痛い。 体が熱い。 だるい。

その時、『山の家』という古びた看板が目に入った。

食事処か、宿屋か…。なんにせよ、駐車場はあるだろう。

名前にも魅かれた。 やまのが。山の中で偶然出くわす事が出来る奇妙な家。そこから何か一つ持ち出すのだ。そうすると、その家は繁栄するという、岩手の言い伝えを思い出した為だった。

一は、その看板の案内に従って車を走らせることにした。

道から降りて、砂利すらひかれていない土の駐車場に車を入れる。

車は奥に2台見えた。 

一台は普通のワンボックスだったが、もう一台は、白い高級車だ。

人は居るらしい。 何かあれば救急車か警察位は呼んで貰えそうだ。

目の端に映ったのは、随分くたびれた感じの古い建物だった。なんとなく、失敗だったか?と、一は思った。


一見すると、宿屋に見えた。

しかし活気が無い。 時間は午後3時。食事処で、暇な時間なのか、閑古鳥の鳴く店なのか…。
なんにせよ、人が居るなら解熱剤を分けてもらえるように頼みたい。

もう少し町まで行ければなんとかなるだろうと思う。

一は財布だけを尻のポケットに押し込むと、その建物へ向かった。
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