◆ くだらない話(all)

□(現代)億千万の胸騒ぎ【8】
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【億千万 50】



平助たちを連れ去った双葉の友人たちの意図を聞こうと、
土方は双葉を見た。
「おい?」
「自分で稼げる子たちだから。板前さんっていう職業が魅力」
「はぁ?」
「美味しいもの作ってくれそう」
「……それ目当てかよ……納得した」
「助けてこようか?」
「ほっとけ。楽しそうだ」
土方が平助を見て呟いた。

「ああ、そうだぜ。構わねぇから座って食ってろ。痩せたんじゃねぇか?」
土方が原田の声に目を戻すと、
原田は立ち上がりかけていた双葉の肩を押さえて座らせていた。
「……甘えさせて頂きます」
双葉は静かな笑みを原田に返すと大口を開けてパクリとやった。
「……普通もうちょっと小せぇ口で食うだろう……」
呆れた土方がぼやく。
「美味そうに食ってんだ。良いじゃねぇか」
原田は軽く笑った。
「美味しいです。召し上がりますか?」
「来てすぐに色々摘ませて貰ったよ。飯と酒の美味い店だな」
「ありがとうございます」
「土方さん、悪いが飲み物頼めるか。カクテル飽きてきた」
「あ?ああ。何飲むんだ?」
「剣菱置いてたよな。頼むわ」
「お前は?」
「同じの」
双葉は空のグラスを土方に渡した。
「……ホントザルだな」
「大丈夫」
「知ってるよ」
土方は苦笑いを双葉に向けた後、
空のグラスを持ってカウンターへと行った。

土方が少し離れると、原田は双葉に潜めた声で言った。
「……今のうちに食っとけよ」
「……。甘えさせて頂きます」
土方にに一言言われてから食べるのをやめていた双葉は、
サンドイッチを大口を開けて二口で飲み込んだ。
更にもう一つサンドイッチは口の中に消えた。
流し込むように食べたのは土方の目を避けているのだろうと思う。

「水……、酒だが……飲みかけでも良いか?」
原田は少し減った、自分の飲みかけだったカクテルのグラスを差し出した。
「甘えます」
受け取ると、双葉は中身を全部一気に流し込んだ。
土方の目を避けているのは間違い無いようだ。
何があるのか知らないが、双葉の友人たちの冷たい態度には
理由があるようだと感じる。
空になったグラスを原田は受け取った。

「……助けてくれてありがとうございます。
どうして分かったんですか」
「……お前……双葉?……さん?
本当に痩せただろ。どうして土方さんは気付かないんだ?
そんな鈍感な人じゃ無ぇんだ」
双葉は薄く笑った。
「双葉、で良いですよ。名前、よく覚えてますね」
「バラみてぇな女が双葉なら覚えるさ。
……って話変わっちまう。
食う暇無ぇほど忙しかったのか?」
「問題ありません」
原田は真面目な顔を双葉に向けた。
「……なら、問題だな」
「……。原田さんは困る人ですね」
双葉は静かに笑顔を保っていた。



“困る”人?



原田が双葉を見ていると、すい、と視線は逃げた。
視線の先には土方が戻ってきていた。
「飲みすぎんなよ」
そう言って土方は双葉にグラスを渡した。
「……飲める方なのか?」
原田が双葉に尋ねる。
「ワインなら2、3本でしょうか。周りも強い人が多かったので
気にした事がありませんでした」
「そりゃかなり強い方だな。それは何杯目なんだ?」
「今日は……3杯ほど飲みました。皆がよってたかって飲むのを邪魔するので」
指を3本立てて見せて、冗談のように双葉が笑って言う。
原田は片方の眉を上げた。
「それじゃ、」
「大丈夫です。ザルなので」

“飲み足りねぇだろ”。原田はそう言う気だった。
言葉を遮るように笑いながら答えた双葉を見ると、また視線が逃げた。
違和感を抱いた。
何かある。
だが土方と双葉が揃っているこの状況では話は聞けないと考えた。

「じゃ、そろそろ俺もパートナー探しに乗り出すかな。
手強い美人たちの所へ行ってくるよ」
原田はそう言って双葉の友人たちの方へ行った。

「……そろそろビンゴやって締めようか」
「そうだな」
双葉はサンドイッチの大皿を点在させてあるテーブルに戻した。
もう2、3個は食べたかった。


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