◆ くだらない話(all)

□(現代)億千万の胸騒ぎ【7】
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【億千万 43】



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双葉は就職先を斎藤が通っていた、土方の居る学園に決めた。

斎藤の卒業後に入籍。
披露宴は夏休みの8月に行う予定。

土方も双葉も披露宴には興味が無かったが、
母親から強硬に「やりなさい」と言われ、やる事にした。

土方双葉、は、四月からは通称を使い、“斎藤先生”として講師となる。
隠さねばならない事でもないが、わざわざ衆知させる事でも無い、
苗字が“土方”では、珍しい苗字だけに関係があからさまになるので
年頃の男女が通う学園である事から、
“斎藤”を使う事にした。



入籍後、双葉は土方のマンションに引っ越した。
春休みの間に荷物運びを終わらせる予定。
出会ってから一年以上が経っているが、
実際顔を合わせた日数で言えばとても少ない。
春休みの間、日々ぶつかり合いながら暮らしていくための距離を探った。



斎藤は。

受験生にあるまじき平穏なクリスマスや年越しを千鶴と過ごし、
危なげ無く希望大学に合格。
卒業生代表もこなし、無事に高校を卒業した。
春休みはアルバイトや入学準備で程々に埋まっている。



千鶴は高校三年生になる。
勉強や趣味や友達と過ごしたりしつつ、
斎藤の空き時間に、一緒に幸せなひと時を過ごす。





その、春休み。

「…………………………。
何故わざわざここへ喧嘩を持ち込む?」
「持ち込んで無ぇ! こいつがここに来るからここで喧嘩になるんだ!」
「違うもん! 荷物取りに来ただけだもん!
歳三さんが怒鳴ってるだけだもん!」
「だからその枕はやめろっ!
持ち込まなくてもここで使えば良いだろうが!」
「ここで寝泊りなんて殆ど無いじゃん!」
「とにかく、新しいの買え!」
「お気に入りなの!」
「お前が気に入ってるのはどうせ斎藤からのプレゼントだとかそんな事だろうが!
持ち込むな!」
「違うし!物を大切にしてるだけだもん!」
「嘘をつけこの野郎!」
リビングを走り回る二人を、斎藤は入り口で立ち尽くして見ている。
テーブルをを挟んで走り回り、ソファを踏み越えて走り回る。

まるで小学生。
しかし体は大きいので騒ぎはひとしお。

「……母さんはどうしたのだ?」
「買い物」
「枕?」
「うん。一つしか無いから持って行こうとした」
斎藤が話しかけると双葉はごく普通に落ち着いて答えた。
「お前には要らねぇだろうが!」
「あったって良いじゃん!」
「良くねぇ!」
「私のだもん!」
「だから新しいのを買ってやるっつってんだろうが!」
「要らないってば!」

双葉が枕を抱えて斎藤の後ろに走り込んだ。
斎藤を真ん中にして双葉と土方が睨み合っている。
「いい加減にして下さい」
「やーい、叱られた」
「やめろと言っている! そこへ座れっ!」
「ざまぁみろ」
「先生もです!」

枕を抱えた双葉がリビングの床に座ったので、
土方も隣に座った。
二人の前で仁王立ちしている斎藤は黙っていた。
「…………」
「……ごめんなさい」
斎藤は大きな溜息をついた。
「くだらぬ事で毎度毎度大騒ぎ。姉貴。何度目だ」
「……七回目」
「先生。大人気ないとはお思いになりませんか」
「……悪い」
斎藤はもう一度大きな溜息をついた。



姉貴のこんな子供のような大騒ぎは見た事が無かった。
先生も、こんなに落ち着きの無い子供っぽい人だったか?



正座する二人を見下ろしながら考えていた。

「ただいまー。はじめ、帰ったの……何やってるの?」
帰って来た母親はリビングに顔を出すと、
三人の光景を見て尋ねた。
「枕を持ち帰るの何のと言って、二人で家の中を走り回っていた」
「……枕?ああ、それ……」
双葉が抱えている枕を見た。
「長く使ってたわねぇ……。何年?」
母親は斎藤に尋ねた。
「部屋を分けた頃だから、6、7年ほどか」
「そうそう。引っ越して部屋が出来たからあんたたちを分けた時に、
眠れないからってはじめと交換した枕」
「眠れなかったのはお前だろう」
「両方!」
土方のニヤリ笑いに双葉が噛み付いた。

「そうそう。二人揃って夜の12時に突然ドア開けたから
おかーさん、お化けでも出たのかと思ったのよねー。
それで、眠れないなら枕交換して抱いて寝なさいって、ねー。
びっくりしたからよく覚えてるわー」
土方がじっとりと双葉を見た。
「はじめが小学生の頃の話だもん」
「ならお前は高校生だろうが。そんな頃まで同室だったのかよ……」
「で、それの為に家の中を走り回っていたの?」
「…………」
「…………。」
双葉と土方は居心地悪そうにもぞりと動いた。
「で、はじめに叱られたの?」
「…………」
「…………。」
「おバカさん?」
「…………」
「…………。」
「大人なんだから話し合いで解決なさい」
「……すみません」
「……ごめんなさい」
「はじめ。二人ともご飯食べてくって。
作るからまた騒がないか監視しといてー」
「わかった」
「…………」
「…………。」

母親が居なくなると、土方はニヤリと笑って枕を取り上げ斎藤に投げた。
「って事は、斎藤の物だな」
「同意の上での交換だから所有権は私に移ってる」
「……」
「……。」
「あのさ」
「なんだ」
「いつまではじめを“斎藤”って呼ぶ気?うちの人間は皆“斎藤”」
「お前に言われてもなぁ。お前はもう“土方”だからな」
「おかーさんも斎藤!」
「誰もそう呼んでねぇから区別はついてるだろ」
「一生“斎藤”って呼ぶ気?」
「あだ名みたいなもんだと思え」
「ふぅん!おとーさんの前でも“斎藤”って呼ぶんだ?」
「ハッ!正月に堂々と爽やかに“君”付けで呼んだのをもう忘れてんのか」
「酔っ払ってたから忘れてるんでしょう!
お正月は“斎藤君”って呼んでたんだから!」
「覚えてねぇ事なんざ知るか。そもそも屠蘇を湯呑で飲むな!」
「器なんて何でも良いでしょ!」
「量の話だ、量の!なんで屠蘇を湯呑で何杯も飲むんだよ!
いやあれは湯呑じゃ無ぇ!カフェオレカップっつーんだよ!
茶碗よりデカいじゃねぇか!飲みてぇだけだろ!」
「飲んでも良いじゃん!」
「どうせガブガブ飲むんだから普通の湯呑使っとけ!」
「結局湯呑で良いんじゃん!」
「…………いい加減にしろ…………」
「!」
「!」
「話し合いとは、怒鳴りあいではない」
「……はい」
「……悪い」
「話も脱線している」
「……そうでした」
「…………」
「枕は俺が保管する。姉貴。良いな?」
「はい」
「先生?」
「……なんでお前が双葉の枕を……」
「俺が、片付けて、おきます。良いですね?」
「……分かった」
「枕を置いてきます。離れますが、また喧嘩をしていたら
今度こそ怒ります。良いですね?」
「……はい」
「……分かった」

斎藤は枕を双葉の部屋に放り込みリビングに戻ろうとした。
「はじめー!!!!!助け……っ」
双葉の声がしたので急いでリビングに戻った。
喧嘩も走り回りもしておらず、二人ともソファに座っていたが。
土方がソファの隅に双葉を追い詰めて楽しんでいる。
何があったのか知らないが、この短時間に双葉は照れて真っ赤になって
土方を押し返していた。
「………………………………。」



結局はじゃれているだけではないか。
家でやれ!!!!帰れっ!!!!



「……姉貴。部屋に行け」
「はいっ、ごめんなさいっ」
双葉は二階に駆け上がった。
「先生。話があります」
「……悪い」
土方はひきつり笑いで謝罪を述べた。
「聞き飽きました」
「……すまねぇ」
斎藤はこんこんと、ここには他の者も居る事、
子供のような喧嘩はやめるようにという事、
いちゃつくのは二人の自宅でやるようにという事などを土方に説教した。
食事が出来上がるまで斎藤の説教は続いた。

ほのぼの(?)とした、平和な(?)春休み。
土方と双葉は仲良く(?)、斎藤家に出入りしていた。



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見てみたかった、下克上♪ とうとう土方さんまで
気の毒な扱いになってきたうちのサイト……。

すまん、土方。
土方、すまん。
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