◆ くだらない話(all)

□(現代)凜麗 【2】
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【凜麗 7】




その夜お千は、聞き慣れない呼び出し音に驚いた。
音を辿ると、鞄の中にiPhoneを見つけた。
放っておいたがしつこく鳴り続ける。
鳴っては止まりを繰り返す事、19回。
20回目の呼び出し音に、お千はiPhoneを手に取った。
暗証番号を求める画面に、少し考えて数字を入力した。
「しつこい……。
えっと、3341だっけ……?サミシイ?
ゲイなのは沖田さんなんじゃないの?」
ブツブツ言いつつ着信を受けた。

『千ちゃん?!』
沖田の大きな声が飛び出してきた。
「……いかにも千ですけど。
デンワを人の鞄に放り込むって、頭悪すぎない?」
『協力して』
「3回回ってワンって言ったらね」
『ワン!』
「………………回ってから言いなさいよ。
なに?この慌てっぷり。どんだけ斎藤さんラブなの?」
『違うったら! 何とかしたいんだ』
「斎藤さんの相手なら、千鶴ちゃんじゃなくても良いでしょう?」
『そうだけど、ああいう子はなかなか居ないじゃない!』
「……話聞くから、キンキンわめくのやめて」
『…………。ごめん』



こいつ、絶対無意識ゲイだと思うわ……。
斎藤さんったら、よく我慢出来るわね……。



お千は息を吐いて沖田の話に耳を傾けた。
途中でiPhoneの電池が切れたが、
沖田はお千のスマホに掛け直してきた。



……お姉さんのiPhone借りて話してるって言ってるけど。
無料電話じゃなかったら、
かなりの電話料金になってるわよ、コレ。
どんだけ斎藤さんラブなのよ……。



沖田が語りまくったのは斎藤についての説明だった。
斎藤は極めて無口で自己弁護の類をしようとしない、
悪評価の噂話に対しても沈黙する、
等の性質を持っている事と共に、
女装についての斎藤の周りの状況など、
細かく説明してきた。

「だからって、どうして沖田さんが斎藤さんの
女の管理をしようとしてるか理解できないわ。
そんなに良い人なら、いつかは自分で良い相手みつけるでしょうに」
『……僕がはじめ君に寄ってくる女の人を気にするのは、
僕のせいではじめ君がとばっちりを受けた事があったから』
「とばっちり?」
『僕に告ってきた子が居たんだけど、僕、
そういうのイラナイから。いつものように断ったんだ。
そうしたらその子、はじめ君に目をつけて。
はじめ君の優しいトコにつけこんで、
強引に付きまとってたんだ』
電話越しに、沖田が息を吐く音がした。
「……でも、結局お付き合いを決めたなら本人の責任でしょ?」
『OKしてない』
「え?」
『まとわりついて、知らない人にはそう見えるように
振舞ってただけ。
はじめ君は困ってたけど、優しく断るばかりで
相手の子は引き下がらないし。
その子もやり方が上手くて。
挙句、その……』
「ああ、妊娠騒ぎや強姦騒ぎに持ち込んだとか?」
『……そんなとこ。
危うく停学か退学かって話にまでなってさ。
はじめ君の経歴に僕のせいで傷をつける所だった』
「その子を冷然と吊るし上げてる沖田さんが見えるようだわ」
『当然デショ』
「沖田さんにとって斎藤さんがどれだけレアかとか、
沖田さんが斎藤さんに気を使ってる事は解ったけど。
それと千鶴ちゃんを追い回すのと、
どういう関係があるのよ?」
「……あの子、最初からはじめ君しか見てなかった。
それに、殆ど話してもいないのに、
はじめ君の良い所に目が行ってた」
「…………」
『…………』
「……え?! それだけっ?!」
『充分でしょ?』
「…………」



沖田さんも人を見る目があるのか。
それとも……。
年下の私相手にこんなに対等に話をぶつけてくる辺り、
人を見分ける人だと思う……思いたいけど。



お千が考えを巡らし黙ると、沖田はまた話し始めた。
『……君、はじめ君に、天使とか悪魔とかの話をしたんでしょ?』
「……あなた達、どんだけ仲良しっ」
『細かい話なんてしてないよ。
悪魔には天使が読めないって言ったんでしょ?
それしか知らない』
「……で?」
『君も悪魔な性質の自覚あるんでしょ』
「……あなたに言われたくないわぁ」
『だから解るでしょって話。
はじめ君の横に居られる子は、とてもレア』
「……それだけの事でこんな必死になってんの?
斎藤さんのおかーさんですか、アナタは。
斎藤さんは斎藤さんで、自分で相手を見つけるべきでしように!
何首突っ込んでんのよ?!」
『……悪魔は天使に笑っていて欲しい。
違う?』



……悪魔は、焦がれても焦がれても、天使にはなれない。
せめて天使が哀しまないように、裏で手を回す。



「沖田さんの主張は聞いたわ。
でも、千鶴ちゃんはもう泣いたの」
『判ってる。
でも、本当のはじめ君を普通に見て欲しいんだ。
それだけで良い』
「凄い自信ね。それだけで千鶴ちゃんが
斎藤さんを好きになるって思ってるの?」
『天使の気持ちなんて僕にどうこう出来る訳無い。
僕がやった失敗を、無かった事にしたいだけだよ』
「……徹底的に、自分の都合ね」
『……そうだよ、僕の失敗だよ』



沖田さんも悪魔な自覚がある人なら、
失敗を認めるなんて普通なら考えられない。
上手く立ち回ってやりすごす。
それだけ斎藤さんには真摯に向き合ってるって事。
私が千鶴ちゃんだけは守りたいみたいに。



「……協力はしないけど、邪魔はしない。
精一杯の譲歩よ」
『それじゃダメ。僕じゃ千鶴ちゃんは動かせない。
千ちゃんだって、千鶴ちゃんに、良い人と出会って欲しいでしょ?』
「っ、アンタねぇっ!図々しいのよ!
私が動かないのは千鶴ちゃんの為にならないとでもいう理論?
あなたの失敗を私に転嫁しようなんて、
良い根性してるわ!
余計な事をしてバカな事態にしたのは沖田さんの失敗でしょう!」
『……うん』
「……助けてお願いお千様、って、心を込めて言いなさいな」
『………………』



助けて、なんて。
本心からは絶対に言いたくない言葉だわ。
我ながら性格悪い……。



『………………』



黙ってる。
解るなぁ。
相手が折れるのを待つのよね。



『……千ちゃん、お願い。力を貸して』
「…………」
『……千ちゃん?』
「…………嫌」
『…………。助けて、お願い』



……ああ。
自分が嫌。
こんな一瞬の満足の為に、骨を折らなきゃならなくなった。



「失敗を無かった事にしたいのね?
やり方は任せて貰うわよ」
「うん」
お千は長く息を吐いた。
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