◆ くだらない話(all)

□試衛館の冬
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「痛っ! いってぇ…」
深夜、試衛館の食客、藤堂平助が煎餅布団の中で小さな声を漏らした。

「どうした? 大丈夫か?」
隣で寝ていた原田佐之助が気づいて声をかける。

「右足が釣った。痛ェ…」

佐之助は掛け布団を肩に掛けたまま動いて平助の右足を手のひらで温めながら解す。

「さみぃからなぁ…」

二人がごそごそやっていると、周りも気づいた。
「何だぁ、どうしたぁ?」

「平助の足がつった」
「平助、大丈夫か?」
「うん、多分…。…佐之さん、ありがと。戻った」

土方は身を起こした。
「さみぃからなぁ…」と繰り返した。
「なんだぁ、どーかしたかぁ…?」
永倉新八も起きたらしい。

「平助の足がつっただけだ」
「…温めとけよ…」
新八はまだ半ば眠りの中だったらしい。

「どうやって温めろって言うのさ…」
新八の言葉に平助がぼやく。

「仕方ねぇなぁ。おい平助、こっちの布団に来いよ」
「良いけど…なんで?」
「…」
「あ、あったけぇ…!」

「男二人で同衾たぁ情けねぇけど、背に腹は変えられないからな」
「この際目を瞑る!」
「ほら、足絡めろ」
「あったけぇ、温い〜!」

「うわ、総司?!」
斎藤一が小さな声を発した。
「あ、ほんとだ、あったかー」
総司は斎藤の布団に潜り込んだらしい。
「っ!よせ、総司!」
斎藤が意外なほどあわてた声を出す。

土方は少し嫌そうに斎藤に声をかけた。
「斎藤、どうした?」
総司絡みで楽しい事は起こらないと熟知している。

「騒いですみません。総司が襟から手を入れてきた故…」
「だから総司!手を…脱がすな! 」
「はじめ君、あったかぁーい」
「………」

耐えているのか、諦めたのか、斎藤は黙っている。
「だから総司! 裾を割るな!!」
とうとう斎藤は布団をはいで飛び起きた。「はじめ君、寒い!」

めくられた布団を引き寄せ、総司は斎藤が寝ていた布団にくるまり直す。
土方は、二人に対し、そっと背を向ける。

さすがの斎藤も寒かったらしく、総司が寝ていた布団へと潜り込んだ。
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