◆ 蒼いびいどろ

□4.黒南風
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【びいどろ 27】



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慶応元年閏五月。梅雨が明けるか明けないかという頃。
新選組は、将軍家茂の滞在する二条城の警備についた。
沖田と、隊士募集から戻っていた平助が体調不良で屯所待機。
今回も近藤が参加を請け合ってくれた事もあり、
千鶴は同行した。
そして夜、土方からの伝令を持って右に左にと走っていた。

篝火と篝火のちょうど中間辺りに差し掛かった時だった。
最近の好奇心に満ちたものとは違う鋭い視線を感じ、千鶴はびくりと肩を跳ねあげて足を止めた。
視線の元を辿ると、独特な風体の男が三人、塀の上に立っていた。



賊?!
趣味悪っ!
はっ!こんな事を思ってる場合じゃないっ!



「……気付いたか。さほど鈍いという訳でもないようだな」



……夜でもそこまでキンキラキンなら気付けます。



声を発した男は髪はキンキラ、着物はふんだんに金糸をキンキラさせた白い絹。
「なんで……っ」
ここは二条城で、今は将軍が滞在している。
なんでわざわざそんな目立つ格好で将軍様を襲いに来たんですか?
何やってんですか?何やりたいんですか?
というのがこの時の千鶴の頭に浮かんでいた問いだった。
どう見ても普通の賊には見えなかったのだ。

「なんでってのが方法を言ってんなら、オレら鬼の一族には人が作る障害なんざ意味を為さねぇんだよ」
不知火が答えた。
「…………」
千鶴は、それは訊いてません、と思ったが黙っていた。
するとキンキラ悪趣味男の横の体格の良い男が声を発した。
「……私たちはある目的の為にここに来た」



あれ。あの人、斎藤さんとやりあってた人じゃない?
……そうですね。目的も無くこんな目立つ来方はしないでしょうね……。



千鶴が顔を知っているのは天霧のみ。
それも初めて会った時は薩摩藩で、薩摩藩とは今も共に二条城を守っている。
千鶴はまだキンキラ悪趣味男とその横の
飛脚みたいな格好なのに偉そうな男に、驚いているだけだった。
千鶴が目を見開いていると、
三人は鳥が着地するように軽やかに塀から地面へ降りてきた。
風間は、千鶴から濃い鬼の血と、弱い力を感じた。

「君を探していたのです、雪村千鶴」
天霧が言った。
「……い。言ってる意味がよく分かりません!
鬼の一族……? あの、鬼ヶ島の鬼ですか?
探しに来たって……あの、私をからかってるんですか?」

キンキラ悪趣味男は不愉快そうな声で言った。
「……鬼を知らぬ? 本気でそんな事を言っているのか、わが同胞ともあろう者が」
キンキラ男の偉そうな態度に、千鶴の頭の中で一つの事と繋がった。



沖田さんに池田屋で大怪我させたのは“派手な金髪頭で偉そうな態度の、顔だけは綺麗な男”!
池田屋で原田さんが逃げられたのは、“肌の浅黒いくりくり長髪の男”!
禁門の変でも出くわして、邪魔されたって言ってた!
まともそうに見えるけど、天霧さん、だったよね?この人、この二人の仲間だったの?!



千鶴は数歩下がって天霧を見た。
すると天霧は、子供を驚かせないよう気をつけているような静かな声音で言った。
「君は、怪我がすぐに治りませんか?」
「?!」
思い当たる事のある千鶴は目を見開いた。
「人とは思えない位、怪我の治りが早くありませんか?」
「……っ、」
天霧は確認するように、同じ問いを投げかけてきた。
千鶴は答えない。
「あぁん?何なら血ぃぶちまけて証明しちまうか?」
キンキラ悪趣味男の横に立つ、偉そうな飛脚が言った言葉に千鶴はまた下がった。
怯えた様子の千鶴に、風間は偉そうにフンと鼻を鳴らした。
「よせ不知火。否定しようが肯定しようが、どの道俺たちの行動は変わらん」
風間は何の警戒も無く千鶴へと歩み寄った。
「その小太刀。雪村という東の鬼を示す姓とその名。この気配。
証拠としては充分過ぎる」
千鶴は風間が一歩進むごとに闇そのものが迫ってくるような圧迫感と、
男に迫られる不快感に、じりじりと下がった。



……風間様。
怖がられてます。



天霧は千鶴の様子を見て眉をひそめた。
「言っておくがお前を連れていくのに同意など必要としない。女鬼は貴重だ。共に来い」
雪村の一族は滅んでいる。綱道は雪村と名乗っているが鬼とも言えぬ程に血は薄い。
風間にとっては敵は居ないも同然で、女鬼などひとひねりだと思っている。



……風間様。
やはり女の扱いは酷い。
そんな事を言って共に来る女が居るとでも思っているのか。




今にも逃げ出しそうな様子の千鶴が一瞬風間を強く睨んだので、
天霧はそう思って更に眉をひそめた。
風間は千鶴へと手を伸ばした。
不快な相手に近寄られれば逃げるは道理。
その手から逃げるために千鶴が身を翻そうとした時、頼もしい声が聞こえた。

「おいおい、こんな色気の無い場所、逢引にしちゃあ趣味が悪いぜ?」
「原田さん!」
原田が槍を肩にして不敵な顔で笑っていた。
「……またお前達か。田舎の犬は目端だけはきくと見える」
風間は不愉快そうな顔をした。
「……それはこちらの台詞だ。薩摩とどちらが田舎かは自明」



……斎藤さん……。
来てくれてありがとうございます。
でも、突っ込むところ、そこなんだ?



千鶴が気を取られている隙に原田と斎藤は千鶴と風間の間に割って入っており、
風間に刃先を向けていた。
その刃は、風間からの闇のように凝った圧迫感をなぎ払った。
「原田さん!斎藤さん!」
「……下がってろ」
肩に手を置かれ、後ろへと引かれた。
千鶴の戻りが遅い気がした土方は近くに居た原田と斎藤と共に様子を見に来たのだった。
もっとも土方が動いたのは、一時斎藤の念弟と見られた千鶴が
他の隊士に絡まれているのではないかと思っただけだったが。
「土方さん!」
それが、千鶴に絡んでいたのは禁門の変で喧嘩を売ってきた相手。
土方は刀の柄に手をかけ、風間を睨みつけた。




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千鶴ちゃんって濃い血を持つ雪村家のお嬢様なんだよね??
なんでこんなに鬼の力がないの?
鬼の力ってお互いに感じる設定なんでしょ?
お千ちゃんは千鶴ちゃんから強い鬼の力を感じるって言ってたもん。

鬼の力って何なの? 筋肉なの?
鍛えないと発揮出来ないの???
天賦の才じゃないの???
千鶴ちゃんがヘボい鬼なの?
教えろ、スタッフ。
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