◆ その他の話

□(幕末)その先【4】
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【その先 16】



睨み合っていると、障子が勝手に開いた。
「内緒話なんじゃないの? 声が大き過ぎ」
緊迫した空気を平気でぶち破り、沖田が土方の部屋に入りこんできた。
「総司!勝手に入るなと何回言やぁ解る!」
「せっかく教えてあげたのに。土方さん酷いねぇ。
それに入らなくても聞こえるし」
「どこから立ち聞きしてやがった!」
「そのヒトがはじめ君を怒らせちゃったって言った辺りかなー」
「殆ど全部じゃねぇか!」
「だってはじめ君が来たら困るでしょ?
見張っててあげたんじゃない」
「どうせ“怒らせた”って話を面白がっただけだろうが!
斎藤は朝稽古に出てる時間だ!来ねぇよ!」
「そりゃ面白いでしょ。あのはじめ君を怒らせるなんて芸当、
なかなかできるものじゃないもん」
沖田は園田一を見下ろした。
そして園田一の前にしゃがむと言った。
「一番組組長、沖田総司です」
「よく存じ上げております。三番組、園田一大司です」
園田一は丁寧に頭を下げた。
頭を下げながら、自分より年下の男に対して鳥肌を立てていた。
沖田の底知れない目に背中が冷えていく気がする。
そしてこの人もまた、“牡丹”ではなく“桜”の人だと思った。
沖田の醸す空気に強烈に惹かれる。
こんな男の傍に居たら自分は熱中し、その先の絶望へまっしぐらだと思った。
配属先が一番組ではなく三番組で良かったと心底思った。
こういう人だったのか、と背中に脂汗が湧いてきた。

「命知らずだね? 僕の組に来ない?
一緒に土方さんいじめてくれそう」
「それは副長の采配なので私には如何ともし難いです。
副長を苛めるほどの度胸も度量も持ち合わせが無いので、
いじめるのはご勘弁下さい」
園田一は鳥肌を押さえ込みにこやかに答えた。
「そう? じゃあはじめ君を一緒にいじめない?」
「それは出来かねますのでお許し下さい」
答えると、沖田はニヤニヤと笑い、土方を見た。

「土方さん、度胸と度量があったら土方さんはいじめるけど、
はじめ君はそれと関係無くいじめたくない、ってさ。
面白い人だよね?
度胸も度量も僕が何とかするから、一番組にちょうだい」
「バカ野郎! そうそうころころ変えられるか!」
土方の言葉に沖田は園田一に目を戻した。
「だってさ。残念だね?」
「恐れ入ります」
ニコリと笑った沖田に、園田一もニコリと笑った。



毒蛇同士でじゃれあってんじゃ無ぇよ……。



土方は気を削がれて盛大な溜息をついた。
「……もういい。お前らまとめて出ていけ」
「はーい。行こう、ソノ……なんだっけ」
「は?ああはい、園田一です。
副長、しかし話が」
「ソノタイチ?長いよ。覚えやすい名前にしてよ」
「よく言われます。なのでソノ、や、ソノダと呼ばれる事が多いです」
「……お前ら……」
「ソノ君で良いかな? タイシ君だと隊士みたいでなんかヤダ」
「構いません。あの、副長、」
「出てけーーーーッッ!!
どうでも良い話をゴチャゴチャやるなら出てけッ!」



いやそれ沖田組長ですから。
私じゃありませんから。



「怒っちゃった。行こう、ソノ君」
「怒らせてるんだろうがッ!出てけっ」



いやあの。話が途中なんですが?
特命は断ったし、切腹も本決まりしてないしで、
なにも解決してないんですが?



「土方さんの怒鳴り声ってカンに触るよねー。さっさと行こう」
腕を取られて引き上げられ、背中を押されて部屋を出てしまった。



話は膠着していたから、沖田組長は、助け舟、の、つもりで
入ってきてくれたのかな?



土方が背後で思い切り派手な音をたてて障子を閉めたので、
園田一は沖田を見た。
「お手数をおかけしたようです。すみません」
軽く頭を下げた。
「……背、高いね。僕と同じ位かな?」
「は?ああ、そうですね」
「そろそろご飯だと思うから僕行くね。
君たちもそろそろでしょ?行けば?」
「へ?あ、はい。ありがとうございまし…た?」
「うん。あ、はじめ君見つけたらご飯って言っておいて」
助け舟だったのか、という疑問が乗った礼の言葉は語尾が上がり、
確認するかのような言葉になった。
沖田はそれを肯定したから、やはり助け舟だったのだと園田一は思った。
「承知しました」
「さっき壬生寺に行くの見たから」
「……呼びに行けという事ですね?」
「別に。でも腹ぺこで組長が倒れたら笑えるよね」



……笑えない。いや、笑うしか無いか。
今頃壬生寺に行ったという事は、
斎藤組長は飯を食うつもりが無いという事か?



斎藤の食欲魔人っぷりをまだ知らない園田一は、沖田を見送った後、
壬生寺へ走った。



……あれが助け舟なら副長も大変だ。
幹部っていうのは、幹部なだけあるねぇ。
副長に沖田組長に斎藤組長。
こんなのをゾロゾロ周りに従えてるのに何だって局長は武田組長なんぞに入れあげるんだか。
副長も苦労が多い。



自分は棚に上げた園田一だった。


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