◆ 突発企画 2015

□(幕末)巨大お手玉の謎
1ページ/2ページ

【お手玉 1】



新選組幹部はそれぞれ、数振りの刀を抱えている。
お気に入りのひと振りがあり、それを修繕に出す時に予備を佩く。
更にその時の予備。
中でも斎藤は常により良い刀を求めて、
買い求めては手放しを繰り返すこと激しい。
と言ってもそこそこのものは組の抱える予備として
新選組に買い上げられて残されるので、斎藤とて使えなくは無い。



千鶴が新選組に馴染でからは、土方も千鶴の外出には寛容になった。
とは言え千鶴を一人で街中には出せない。
幹部たちの用事にくっついていく形で
千鶴は気分転換の外出が出来る。
その相手で回数が一番多いのが、
土方の信任厚い斎藤だった。
お喋りをしながらの楽しい外出、では無いが、
歩調を千鶴に合わせてくれたり、
無言で評判の団子屋や小間物屋に寄ってくれたりという
寡黙な気遣いに、千鶴は斎藤らしさを見て
心が温かくなる。



「雪村」
「あ、斎藤さん、お疲れ様です」
「出かけるが」
「行きます!」
「副長の許可を貰ってくる」
「ありがとうございますっ」
斎藤の外出はほぼ刀剣絡みの店巡り。
今では短いやりとりで話が進むようになった。

斎藤を一人で街をフラフラさせると
浪士に限らずならず者や他の所属の武士など
絡まれて喧嘩を買わされてくる。
雰囲気が剣呑なのか、組み伏せ易しと見られるのか、
右差しのせいか。
だが千鶴をくっ付けておくだけで
面白い事に、斎藤は絡まれなくなる。
余程柔和な雰囲気になるのだろう。
土方としては安心材料なので、この2人の組み合わせの外出には
あっさりと許可を出す。
しかも斎藤の外出目的は武器調達なので反対する理由も無い。


斎藤が戻ってくるまでに、普段は草履の千鶴も
草鞋の紐を緩まぬようにしっかりと結ぶ。
結んだ先を更に絡ませて慎重に確認する。
いざとなったら逃げるか応援を呼ぶか、
どちらにしても走れるように拵える。
そんな千鶴だから斎藤も千鶴を連れ歩くのが苦痛では無かった。
新人の、下手に剣を扱える向こう見ずより逃げてくれる千鶴の方が
気が楽な程だった。
結局何くれとなく斎藤と千鶴はよく連れ立って外出している。



「いつものお店ですか?」
「いや。店同士の集まりに潜り込める事になった」
「面白そうですね」



面白いか?



斎藤はチラリと千鶴を見た。

千鶴は刀剣に興味がある訳では無い。
だが、新しい事を知る、という事が楽しい。
十把一絡げの中から使えるものを見つけ出そうとする斎藤が
ブツブツと語る講釈から、
刀の良し悪しとはどんなものかという
“知識を得る”のが楽しみでついていく。
今日はお店の集まりだというから、いつもと違う様子だろう。
千鶴は、それが、面白そうだと期待した。



斎藤のよく通う店に寄って、店の主と合流してから
集まりの場所に向かう。
「斎藤様。今日はお刀は左でお願いしますよ?」
「何かあるのですか?」
尋ねたのは千鶴。
「この界隈で右差しと言ったら新選組組長の一人しかおりませんよ。
そんなお人をあからさまに連れ込むのは野暮というものです」
店の主は千鶴とも顔なじみなので、柔らかい笑顔で答えてくれた。

「あ」
この界隈どころか、右差しなど日の本中探しても斎藤位だろう。
よく考えれば当然の事だった、と、千鶴は首をすくめた。
その様子を、店の主もにこやかに見守る。
斎藤のよく連れてくるこの小姓は察しが良く、覚えも良い。
脇差は古いがなかなかの良刀。
しかも自分の扱う商品に関心を持って
話をよく聞いてくれるとなれば、
店の主としては嫌う理由も無い。
脇差しか持ち歩かない小柄なこの小姓には、
いつか体に合う短めの良い刀を
自分の店で見つけて欲しいと思っている。
「斎藤様は目利きなので財布の紐が固い。
今日こそはその紐を緩めて頂いてたんと儲けさせて貰う魂胆です」
店の主は笑いながらそう言った。



***********



案内されたのは広い貸座敷。
大量の刀が並び、人もわさわさと動き回っていた。
斎藤は刀を腰から抜くと、脇差のみを左に収める。
「雪村」
「はい?」
「差しておいてくれ」
「えっ?!」
斎藤に差し出された大刀を見て驚いた。
「常に俺の右に居ろ」
「あ……。はい!」
右腰に刀を佩けない代わりに千鶴に佩かせ、
自分の右側に刀がある状態にしようという意図を読んで
千鶴は大刀を受け取った。
千鶴が苦労しつつ刀を腰に据えると、斎藤が向きを調整する。
体の前に柄が来るものだが、今の千鶴の腰の大刀の柄は
前を向いている。
店の主は小さく笑った。
「いかにも刀の使い方を知らぬお坊ちゃんの様相で、
良い誤魔化しですな」
店主は好意的な笑みで言った。
しかし男装の千鶴には刀の佩き方も知らぬ、と、
恥をかかせる事になる。
斎藤の顔が少し曇って千鶴に向いた。
「……すまん」
「いえ!お役に立てて良かったです。
でも重くて転びそうです」
千鶴の明るい笑顔の返事に、斎藤の表情もいくらか明るくなった。



店の主と共に動き回りながら、千鶴は
ブツブツと語る斎藤の蘊蓄や講釈を楽しんだ。
散々時間をかけてうろつき回った斎藤は、
思い出したように千鶴を見た。
その視線を受けて千鶴は笑った。
「これだけ1度に沢山を比べると、なんだか
私にも良し悪しが見えてくるような気がします」
「そうか」
千鶴が退屈していない事に安堵して、斎藤は微笑で応えると
また刀の物色に集中した。
もう幾振りもの刀の購入を決めたものの、
まだ探すつもりらしい。



その斎藤の様子が変わった、と感じた千鶴は斎藤の横顔を見た。



あ。
お顔が輝いてる。



気に入った刀があったらしい。
斎藤はひと振りを手にして動かなくなっていた。
その刀を、断りを入れて店の主と共に部屋の端へと持って行った。
随分とくたびれて情けなくなった拵えを
取り除きだしたのを見て、
千鶴はドキリとした。
こんな場所でこんな事をして良いのだろうかと思う。
しかし斎藤の手は遠慮が無かった。
わざわざ持ってきたらしい道具を使って目釘を外している。

斎藤はブツブツと呟き始めた。
「鬼神丸 国重(きじんまる くにしげ)……。
摂津国の刀工。俗名長兵衛。 新刀中上作にして業物。
作風は大乱れの刃文を得意とし、茎(なかご)には
「摂州住国重」「摂州住池田鬼神丸国重」などと銘を切る。
「池田」は住地摂州池田……。
これは……生ぶではないかっ」
「……これは……なかなかですな……。
しかし荒々しい……禍々しい?」
店の主は、ものは良さげだが、本当に本物か?という顔つきである。



禍々しい?かな?綺麗だと思ったんだけど。
なんだか、戦う時の斎藤さんみたいなお刀……。
一切を実力で跳ね返す……みたいな?
そういう意味では激しい感じの刀?



「……負けるもんかっていう感じの刀ですね……。
あの、生ぶ(うぶ)って、何ですか……?」
「……作られた当時の形を残しているものだ。
茎のここは形を変えられたりする事もある場所だ。
それが残っている。
それにここは、研ぐほどに擦れていくのだが、これは……」
「長兵衛らしいですが、にしては、奇妙な違和感が残りますな……。
だからこそのお値段でしょうが」
相場よりもいくらか値打ちな金額をつけられていた。

斎藤は刃の向きを変えて色々な方向から見た。
歪みが無い。
使われた形跡が酷く薄い。
反りも、好みの具合。
大乱れの刃文に、何かを突っぱねるような、
突き返すような、頑固な気配を感じる。
店の主が禍々しいと感じたのは、この、
持ち主を試すような頑固な光だろう。
他の者にはどう映るかは分からないが、
これは、自分には掘り出し物で、
待っていた刀だ。

「……所詮消耗品だ。これも頂いていこう」
のめり込んだのを見透かされてふっかけられては適わない。
斎藤は動揺を飲み込んで淡々と言った。




―――――――――――――



刀の蘊蓄はWikipediaをコピったので、
責任持ちましぇーん(^^;
これが本当に斎藤さんの刀かも責任持ちましぇーん(^^;
手に入れた時期も経緯も、
こんな業販の場があるのかもわかりましぇーん(^^;
相手が千鶴とはいえ、斎藤さんが
自分の体から刀を離すとも
思えましぇーん(^^;
(なら書くな。いやだってそこはラブストーリー(…ラブストーリー?か?))
創作ですので、そこの所宜しくお願いします
m(_ _)m
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ