◆ 突発企画 2014(下半期)

□3万hitリクエスト 美女と羅刹
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【美女と羅刹 1】




遠い遠い未来の話。
地球は数々の戦争と天災を経て、
世界の技術はすっかり退化していた。



ある里に、雪村千鶴という美しい娘が住んでいた。
技師の娘で、明るく優しく働き者で、里一番の美しさ。
だが、永遠の機械の体を手に入れるため
銀河鉄道に乗るのが夢、という、
少し風変わりな娘でもあった。
カラクリが好きで、機織りもせずに
いつも奇妙な機械仕掛けのカラクリを作り出していたので
「機械ヲタ」と言われていた。

そんな千鶴の目下の悩みは、しつこく結婚を迫る頭領、
風間千景の存在だった。
美しいものが好きな風間は、頭領で金持ちなのを良いことに、
日々千鶴に嫁になれと迫っていた。
この日千鶴は風間から逃げて、裏山に入っていった。

この裏山には恐ろしい野獣が住んでいるという言い伝えがあり、
誰も近寄らない。
人の目の無いのを良いことに、千鶴は、
新しく作ったカラクリを試そうと思った。
「よいしょっと」
千鶴は黒く長い棒のようなものを構えると、
人差し指を軽く引いた。
すると、

ズタダダドダダダダダダダダ……

という派手な音と共に、近くの木や葉が激しく飛び散った。
「ふう。割と成功かな?弾がすぐ無くなっちゃうのが困っちゃう。
このカラクリの名前は、ましんがん、にしましょう」
カラクリが上手く出来ていたのでスッキリして、
にっこりと可愛らしく微笑むと、
千鶴は里に帰ろうとした。
その時、ドサリと大きな音がした。
「きゃあぁぁ……へ?」
木から落ちてきたのは、真っ黒い塊……に見えた、
人だった。
「だ、大丈夫ですかっ!すみません!
人が居るとは思わなくてっ!」
千鶴は、木の上から落ちてきた黒づくめの服の男に駆け寄った。
「問題無い」
「でも、あんな高いところから……っ。
私のましんがんのせいで……っ!
……え。
あの、あの……腕が取れてます……。
…………。
あなた、カラクリなんですね?!
きゃあ!凄い!人型なんて見たことないです!
あああよく出来てる!
人みたい!」
機械ヲタ千鶴は、落ちてきた男の
ボッキリ折れた腕を拾い上げて目を輝かせた。
「……あんたは、人か?」
「……人に、見えませんか?」
「姿を見られたからには、あんたを帰す訳にはいかない。
一緒に来てもらおう」
「へっ?!」
千鶴は黒づくめの男に連行されてしまった。
連れていかれた先は、
山奥のそのまた奥にある、
ひっそりと建つ城だった。



**********



「……見られちまった以上は仕方無ぇな」
「食糧にすんの?」
「人は美味しくないと聞いている」
「じゃあ燃料?」
「人は燃やすと臭いからヤダよ」
「じゃ、どうすんのさ」
「放っておけ。人なんざ寿命があるこらすぐおっ死んじまうからよ」

目の前に居るのは、5人の男に見えた。
だが話の内容は、とても人とは思えなかった。
剣呑な会話をされて、千鶴は震え上がった。

「おいあんた」
紫の瞳に艶やかな長い黒髪の、
それはそれは美しい若者が見下ろしてきた。
「俺たちがアンドロイドだってことを知られちまった以上は、
ここから出す訳にはいかねぇ。
この城で暮らすって言うなら、命は助けてやる。
逃げたら敵とみなす」
千鶴はコクコクと必死にうなづいた。

「あんた、女なんだな。久しぶりに見るぜ。
俺は原田左之助ってんだ。
これから宜しくな」
「おい、何自己紹介してんだっ」
「だってよ、この子、ずっとここで暮らすんだろ?
仲良くした方が良いじゃねぇか」
「だなっ! 俺は藤堂平助!探索型だ」
「おい平助!余計な事言うなっ!」
「煩いなぁ、土方さんは。
どうせ死ぬまで閉じ込めるんでしょ?
僕は沖田総司と言います。
突撃型だよ。逃げるなら僕に殺させてね。
あの五月蝿いのは指揮演算型の土方歳三さん」
「チッ」

土方、と呼ばれた紫の瞳の男は、
黒づくめの男に声をかけた。
「おい斎藤、腕を見せろ。やったのはそれか?」
斎藤、と呼ばれた黒づくめの男は、
手に持っていた腕を土方に渡した。
「……銃創じゃねぇか。久しぶりに見るな。
それでやられたのか?」
「はい」
斎藤と呼ばれた黒づくめの男は、脇に抱えていた
千鶴の作った“ましんがん”を土方に渡した。

「おい女。これはお前が作ったのか」
「……落ちていたものを直しました」
「悪くない腕だ。斎藤、直すの手伝わせてみろ。
もしかしたら意外と使える奴かもしれねぇ」
「御意」
「おい女。名前は」
「雪村千鶴と言います……」
「千鶴、か。お前、斎藤について行け」
「は、はい……」

「それは汎用型だよ。だから何でも出来るんだ。
何かあったらはじめ君に聞きなよ」
沖田、と名乗った男が言った。
千鶴は黒づくめの男を見上げた。



……この人は、さいとうはじめ、っていう名前なんだな。



「……宜しくお願いします」
千鶴は、これから先どうなるのか予想もつかず、
小さくなって斎藤に言った。
「汎用型、斎藤一だ」
抑揚の少ない、淡々とした声だった。
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