◆ 突発企画 2014 (上半期)

□(幕末)黄泉比良坂
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【 黄泉比良坂 1】




「雪村君。斎藤さんの容態は?」
「怪我は治ったのですが、意識が……」

母成峠で砲撃を受け、怪我をした斎藤が、丸一日目を覚まさない。
その夜も千鶴は斎藤に付き添っている。
しかしさすがに疲れが出た。
うつらうつらしながら、いけない、起きなきゃ……と思っていた。




気づくと、洞窟のような場所に居た。
神社の入り口のような注連縄が張られた向こうに、斎藤が見えた。
「斎藤さん!」
千鶴が叫ぶと、斎藤は振り返った。
その周りを天女が舞っていた。

「ちょっとアンタ、やめてよね!
久しぶりの良い男なんだから!」
「まったく、近頃の小娘ったら超ウザーい!
何でも思い通りになると思ってて吐きそう〜」
「アンタ、帰れば?」

……天女と言うにはガラが悪い。
だが千鶴は怯まない。

「斎藤さんを返して下さい!」
「笑える〜〜」
「はいどうぞって返すと思ってんの?バカじゃない?」
「うざ」

千鶴は状況が掴めていなかったが、
このまま斎藤を行かせてはいけない、という気はしている。
千鶴は斎藤に向かって歩き出した。

だが注連縄から向こうに入れない。

その時背後から声がした。

「こんなところで何をしている、我が妻よ」
「ゲッ、風間さん!」
「……下品な声を出すな」
千鶴は風間を無視した。
今はそれどころではない。
「俺を無視するとは……」
「オジサン、うるさい。
あなた斎藤さんに負けたんだから、もうあっち行って!
斎藤さん!斎藤さん!」

おじさん。

千鶴にそう言われた風間は、ヨロヨロと注連縄の向こうに行った。

「風間さん!そっちに行けるなら斎藤さんを連れてきて下さい!」
「俺に命令するとは……」
「頼んでるんです!!
もう頭ボケてるんですか、オジサン!
斎藤さん!戻って!」
千鶴は呼び続けた。
「ねぇ天女さま!ほらそこに美形が行きましたよ!
斎藤さんより背も高いし、頭領だし、お金持ちです!
自慢するなら断然そっちがオススメです!
だから斎藤さんを返して!」
「あ。私こっちにする〜〜」
斎藤をとりまいていた天女の一人が、
千鶴にオッサン扱いされて棒立ちになっていた風間に乗り換えた。

「…………そうだ。
沖田さん、召喚!」

「千鶴ちゃん、呼んだー?」
注連縄の向こう側に、沖田が現れた。
「喚びました!
天女さま! ほら、美形です!
斎藤さんより高身長!そして剣の天才!
絶対自慢出来ます!オススメです!!」
「あら。私こっちにしよっと」
斎藤から一人の天女が離れた。

あと一人。

「山崎さん、召喚!」
「何か用か? 雪村君?」
「……こんな若造、趣味じゃない」
天女の声が聞こえた。

「ならば! 井上さん、召喚!」
「おや雪村君。ここに来るのはまだ早いよ」
「私、こっち」
「おや、私がモテるとはねぇ」

千鶴は3人の天女を引き離すのに成功した。

「じゃ、返すわ」

ぺいっ。

斎藤は注連縄の向こう側から、千鶴のいる側に追い出された。
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