◆ 突発企画 2014 (上半期)

□(明治)斗南の祝宴
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【斗南の祝宴 1】



斗南。



斎藤の求婚を経て、斎藤千鶴となった千鶴だったが。
盃を交わした夜から、斎藤はある面で非常に素直に自分を出すようになった。
その斎藤の一面に、千鶴は正直、かなり驚いた。

そのひとつは、「かなり好色」。




盃を交わしてから、3日。

斎藤と千鶴は、酒をくれた“お隣さん”に挨拶に来ていた。



「お披露目はしないのかい?
斎藤さんは、松平様のお側でのお仕事でしょう?
それで済むのかい?」

隣人夫婦は斎藤より十歳ほど年上で、先祖代々松平公に仕えてきた家柄。
親切で柔和で、そして常識人だった。

“それで良いのか?”と問われれば、良い、と答えられる斎藤と千鶴だが、
“それで済むのか?”と問われると…。

恐らく、難しい。

今の斎藤は、筋を通さず押し切れる程度の立場ではないし、
無茶を通せるほどの立場でも無い。


斎藤は武家の生まれではあるが、斎藤自身は城勤めすることなく家を出ているし、
千鶴に至ってはそういう事を学ぶ前に新選組の……ある意味土方の型破りな行動規範に染まっている。
周りとの兼ね合い、周りの目、というものを失念していた事に、斎藤と千鶴は顔を見合わせた。

助言に感謝して、二人は隣家を辞した。



***********



仕事から冴えない顔で帰ってきた斎藤が千鶴に話を切り出したのは、
寝る準備の済んだ蒲団の横だった。
「……やはり披露目はやらねばならぬ事になった」
「そうですか。
では我が家に集まって頂く事に?」
「いや。それが……」


斗南藩主松平公は、土方と年の近い、柔軟な思考を持つ賢候。
ただちょっぴりお茶目度が土方より上だった。
「斎藤の細君は美女だと評判ではないか。
余も会いたい。
自宅で披露目をされては余は行きにくいな。
堅苦しいのが嫌だと言うなら、ここで、披露目ではなく祝宴としてやろう」
要するに、今で言う披露宴すっ飛ばして二次会やろうぜ、場所は提供するからよ、的提案だった。

「……大変な事になったように聞こえますが……」
「ああ。全て用意するから寝間着で来いと笑っておられた。
大変な事になった……」
斎藤がため息をつくのには、別の理由もあった。
千鶴を人目に晒したくないのだ。
「有り難いお話なのに、怖い感じがするのは何故でしょう……」
千鶴は斎藤の横に腰を下ろした。
「すまない」
「はじめさんが謝る事ではないじゃないですか」
励ますように千鶴は斎藤の手を取った。
その手を斎藤が包み込む。
がんばりましょうね、と言おうと、千鶴は顔を上げた。
言う前に、斎藤の唇で口をふさがれてしまった。
そして引き寄せられ、斎藤の手が千鶴の背中に回った。

千鶴は思わず身を引いた。
「千鶴?」
「あっ、あの……今夜も、ですか?」
「嫌か?」
「嫌と言うか……もう少し手加減して頂ければ、家の事もちゃんと出来るんじゃないかと……思うんですけど……」

祝言からこちら、千鶴はろくに蒲団から出ていない。
三三九度の真似事で婚儀を済ませた夜、斎藤は堰を切ったように連夜千鶴を求めた。
散々斎藤に翻弄された千鶴は、翌日は起きれなかった。
それを見越していたのか、贖罪のつもりかわかないが、
斎藤は千鶴が眠っているうちに米を炊き、お握りを作ってから出仕し、夜も片付け、皿洗いを手早く済ませてしまう。



家事をろくにしておらず、申し訳無いと思った千鶴が斎藤にそう言うと、抱き寄せられ、優しく口吻をされた。
千鶴はゆったりと斎藤に身を寄せた。

ただ。
それだけでは終わらず、そのまま千鶴は斎藤に煽られ意識を飛ばした。
翌日も同様で、盃を交わして以来、千鶴の昼夜は逆転しかかっている。



翌朝、やはり起きられなかった千鶴は、斎藤に再び申し訳無いという気持ちを告げた。

「家の事は俺でも出来る。
千鶴は千鶴にしか出来ない事をしてくれた方が、俺は嬉しい」



うん。
そう言われる気はしてました。



優しい瞳でそう言ってくれる斎藤だが、今の千鶴にはこう聞こえる。
「家事なんて俺やるからヤらせて」



む……。
昔は……。
こんな一面、少しも感じなかったんだけど……。
はじめさんは。
実は………かなり、相当な、とっても、凄く……好色?
隠してたのかな……。



千鶴の予想通り、その夜も散々、斎藤により嬌声をあげさせられ、意識を飛ばした。



い、いつまで続くのかな……。
斎藤さんのあの体力はどこから来るのかな……。
(数年分思いを溜め込んでますからね。がんばれ千鶴ちゃん)



他の家の奥さんは、こんなにぐったりしちゃっても翌日普通に暮らせているのかな。



翌日、ぐったりした千鶴は、ちょっと落ち込みながらそう思った。



**********



夜。

「明日は松平様のご用意なさった宴ですよね?!
今日もだと、私、明日動けなくなっちゃいます!」
千鶴はとうとう悲鳴に似た声をあげた。

「……わかった。今日は短くする」



それでもするんですかーっ!!



ささやかな抵抗を試みた千鶴だったが、斎藤に触れられれば蕩けてしまう。
結局その夜も千鶴は翻弄されたが、宣言通り、時間は多少短かった。
不幸中の幸いであった。
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