◆ 雪月華 【3】斎藤×千鶴(本編沿) 完結

□はじめくんの生体実験
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【はじめくんの生体実験 1】



会津に入り、激戦を重ねるうち。
斎藤は、吸血衝動の頻度が増えた。

戦闘中に明らさまに白髪赤目になるのを避けるため、
欲求を感じた際に血を口にするようにした。

戦場には血が溢れている。
欲求を満たすのに事欠かないと斎藤は当初考えていたのたが。
千鶴の血と他の者の血は、まるで違う事を思い知った。


豊潤な酒と、塩水のような違いだった。


どちらも後に渇きは来るのだが、千鶴の血が僅かで満たされるのに対し、
人の血は渇きだけを呼び、更に多くを求める事となる。

山南が千鶴に研究への協力を求めて血を欲したのは、あるいは正しかったのかもしれない。
だがもしその推察が正しく、実行されていれば。
土方が山南を牽制していなければ。
今頃千鶴はどうなっていたか。
ぞっとした。



だが、ある時を境に、斎藤は、千鶴の血が特別という考えを改めた。



千鶴の血が特別なのではなく、千鶴自身が特別なのだ。



それを斎藤は、土方との別離の日を境にして気づいた。



************



土方と離別した斎藤は、会津に残る事を希望した者達を率いて戦場に居る。
千鶴と心を通わせた後も、斎藤は表面上は変わらなかったが、
千鶴には違う顔を見せ始めた。



ある深夜、多少の飢えを感じていた斎藤は、千鶴に促されるままに血を口にしようとした。
だが千鶴を目の前にすると、血より先に唇が欲しくなり手を伸ばした。
大人しく受け入れる千鶴に歓びを感じ、つい長く唇を喰んだ。

以前原田が講釈を垂れていたな、と斎藤は思い出した。

「接吻は大事だぜぇ。大抵の男はここで手を抜くから面倒なんだ。
たっぷり時間を割いて、相手の体がフニャッとなるまでやるんだ」

腕の中の千鶴に満足しながら、斎藤が千鶴との口付けを愉しんでいると。
ふわりと千鶴から花のような爽やかな気配を感じた。
薄く目を開くと、警戒心の無い仔猫のように千鶴がゆったりと斎藤に身を寄せていた。



これが、原田が言っていた“フニャッ”か?



面白いな、と思い、再び目を閉じ千鶴の感触と気配を楽しんでいると、今度は千鶴が山野と似たものに変わっていく。
人と大木では気配が違う。
小さな千鶴の気配が拡がっていく。
不思議なものだな、と思った。

斎藤に何度も啄(ついば)まれ、薄く開いた千鶴の唇を舌で割った。
途端。
花の香りも拡がりも消え失せた。
どうしたのかと目を開けば、千鶴が斎藤の服を掴み、小さく眉根を寄せていた。
だが嫌がっている風も無いため、斎藤が口付けを深くしていると、
今度は甘ったるい香りに変わっていく。
この気配は知っている。
強い羅刹の発作の時に、時折千鶴から立ち上る香りだ。



供血の時、傷が治っていく過程で生まれる香りかと思っていたが、
違っていたのか…?



やがて斎藤の舌の侵攻に慣れたのか、千鶴が緊張を緩めていく。
おずおずと応えていた千鶴から緊張が消えていく程に、甘い香りが強くなっていく。

空気を求めて逃げた千鶴の唇を追えば、甘い香りが更に濃密になり、千鶴の体から力が抜けていく。
今にも崩れ落ちそうに力の抜けていく千鶴の体を支えようと、千鶴を強く引き寄せれば、甘い香りは蜜の濃さになった。



これは…まずいかもしれない。



これ以上この香りに晒されれば、千鶴を求める気持ちに抗う事が出来なくなっていくのを知っている。
斎藤は、口吸を止めた。

千鶴がゆっくり目を開いた。

トロリとした目を斎藤に向けていた。



こっちが、原田が言っていた“フニャッ”か。



恥ずかしそうに顔を逸らす千鶴の蜜の気配が、ゆっくりと花の香りに戻っていく。



もしかすると。



1つの考えが浮かび、斎藤は千鶴の耳朶を唇で挟んだ。
ピクリと千鶴が身動ぎ、僅かに身を捩る。
花の香りが濃く甘いものに変わっていく。



「気持ち良いのか」



耳元で小声で尋ねた途端だった。
千鶴がガクリと膝を折った。
驚いて、その身を支えた。
千鶴は精一杯顔を斎藤から逸らし、斎藤を押し返して離れようとしているが、力が全く入っていない。



立てなくなった千鶴に合わせて、斎藤は地面に座った。
千鶴を膝に乗せて抱き寄せた。
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