◆ 雪月華 【3】斎藤×千鶴(本編沿) 完結

□傍に居たくて
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【1】



別動となった土方に代わり会津で新選組の指揮を取っていた斎藤は、
土方の合流を待ちわびていた。



戦闘の指揮と責任、その結果である死者と負傷者の重みには耐えられた。

心にのしかかるのは、千鶴の存在。

自分に何かあった時には千鶴はどうなるのか。
子供ではないのだから、何とか生きていくだろうと思う。
だが出来る事なら、一人で必死に生き抜く日々となるより、ゆったりと幸せになって欲しいと思う。

土方ならば。

土方の生家は豪農であったから、鬼や戦の問題が落ち着けば助けてくれるかもしれない。
そうでなくても、土方なら千鶴の身の処し方には配慮してくれるだろうと思えた。



そして。 何よりも。

……勿論血に狂う“その時”が来た時には自分で幕を引き、余計な心労を負わせるつもりはない。
しかし、万が一、は、必ずどこにでもある。
土方ならば。
羅刹として血に狂ったその時には。
非情の刃で自分を斬ってくれる筈だ。

まっとうに対峙するなら、自分とて土方に簡単に負けるとは思わない。
だが、知る限り、狂気に走った羅刹の動きは雑だ。
力任せの単純な動きになれば、土方なら自分を殺せると思う。

千鶴を、仲間たちを、味方を手にかける恐怖から、一歩遠のかせてくれる。



土方なら。



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「悪いな、遅くなっちまって」
片足を引き摺るように歩く土方に、斎藤の背を冷たい汗が流れた。
だが土方の横には、健在な平助も居た。
今の平助ならば、迷いなく自分に斬り込めるだろう。
大丈夫だと思えた。



生の楔から、やっと。
自由になれる。




「……お前は、よくやってくれてるよ」

そう言った土方から感じる違和感に、斎藤は顔を上げた。
新選組の土方歳三、という肩書きが無くても、今の土方には人が集まるだろうと感じた。

陰が無くなった、と思う。


この土方なら、千鶴も傍に居られるだろう。



それなのに。



欲が。



鎌首をもたげる。



あの娘を、手放したく、ない。



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