◆ 突発企画 2014 (上半期)

□(幕末)天霧
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【天霧 3】




「風間は強いです。
最悪の事態を想定して間違い無いでしょう。
その時が来るまでは、斎藤。
彼女に幸せな時間を与えてやってはどうかと私は思います。
命は儚いものですから」



天霧は酒の甕をひっくり返した。
ポツリと一滴が落ちた。
三升入る甕だが、店主は三升買ってこなかったのか?と天霧は密かに思った。

斎藤に会う前に、この甕と同じくらいの大きさの甕を半分ほど飲んだ。
この甕に元々どれ程入っていたのか。
最初に注いだ時にはかなり甕は重かったと思ったのたが、記憶違いだろうか。
さておき、今日は程々飲んだ。
「酒も切れたようです。今日はお開きにしましょう」
そう言うと天霧は、月の夜の中に消えて行った。


翌朝の天霧の記憶に、斎藤は居ない。
斎藤に会って話をしたことを寸分たりとも覚えていない。
解るのは、僅かに体内に残る酒の気配に、昨夜は結構飲んだようだ、という事のみ。

自分が斎藤の何に火をつけたのか。
何に油を注いだのか。
天霧は永遠に気づかない。



天霧が去った後すぐに、斎藤もその場を後にした。
そして黒い嵐を吹き出しながら御陵衛士の屯所である月真院に帰った。

斎藤が門をくぐった頃。
「ヤダ何この気配っ!
敵襲?! 敵襲なのっ?!」
斎藤の放つ黒い気配に飛び起きた伊東が、刀を手に玄関口へと走っていた。

玄関口に至った伊東は、斎藤とすれ違った。
斎藤は伊東を視界にも意識にも入れなかった。
その斎藤の背中を、伊東は黙って見送った。
「……あんな斎藤君も、良いわねぇ……」
頬をほんのり染めて、伊東は呟いた。



黒い嵐を吹き出している斎藤だが。


数年後には、自分が千鶴に、あーんな事やこーんな事を…………………………………………おそらく風間が千鶴を嫁に迎えた場合以上に……………………ヤり倒しているとは。


この時の斎藤には、想像もしない未来であった。
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