◆ 斎藤×千鶴(転生パロ) +SSHL

□北へ走る 10
3ページ/4ページ

◆◆◆◆◆◆



「…水着、ですか?」
「他にも必要なものがあれば。 タオルと帽子はあった方が良いか。
もう少しいい店でと思っていたのだが、こちらは店自体が少ないな」

大型チェーンの衣料品売り場で、千鶴は引きつり笑いになっている。
海とは言われたが、水遊び位に考えていた。

「で、でも私、買えるほどのお金を持ってきてないですしっ…」
「俺が持っているから問題ない。 決まったら言ってくれ」

そう言うと一は、男性用の水着コーナーの方へ行ってしまった。


ひえええええ! どーーーーーしよーーーーー!


心の中で叫んだものの、一を捕まえて気を変えさせる度胸も無い。
一の、買い物にかける時間はなんとなく短そうな気がする。
待たせるのも悪い。


今日は楽しむって決めたし!
旅の恥はかき捨て!

 
千鶴は急いで自分にも着れそうな水着を探した。






水着に着がえ、浜に下りる。
「うわー! 人が居ない! 綺麗! 海が黒くない!」
どこまでも人、人、人だらけの海しか知らない千鶴には、こんなに綺麗な場所に人が居ない事が信じられなかった。

「そうなのか?」
「え?」
「俺は海で遊んだ記憶がない」
遠くを見る一を千鶴は見やる。

「母は夜に仕事をする人だったから、あまりこういう場所には来なかった」
「お父さんは…」
「生きてはいるが、居ない。うちも母子家庭だ」

「…そうだったんですか」
「…少し変わった人だから、普通の母子家庭とは違うと思うが」
「そうなんですか?」
「ああ。昼近くなってしまったな。少し遊んだら飯にしよう」

詳しく聞きたかったが、そう言って荷物を日陰に置くと、一はスタスタと水辺へ行ってしまった。

千鶴も荷物を置いて一を小走りで追う。
すぐに海に入っていくかと思い急いだのだが、一の足は水際あたりで止まった。

そしてしゃがみこむと、何かを拾い出した。
近づくと、一の手の中に数個の貝殻が溜まっていた。

何の変哲もないハマグリの貝殻に見えるが、形の綺麗なものを集めているらしい。
集中しはじめたらしく、少しずつ前に進みながら、貝を拾っては選別し、また探すという事を繰り返しながら海の方へ移動していく。

なんだか小さな子供みたいな事を始めたな…と思い、千鶴は一の動きを見守った。
近くに居た幼稚園児くらいの女の子が寄ってきて、一の手元を覗き込む。
するとその小さな子は、一の真似をして貝を拾い始めた。

そして一つを一に差し出す。
一も受け取って、何かを話していた。
女の子は数度繰り返すと、今度は一の背中に昇りはじめた。

その一に、今度は70過ぎ位の女性が声をかけている。
女の子は女性の孫か何からしい。 一はその女性に何か答えたようだった。
と、女性は一から離れた日陰で立ち、女の子は一に昇っては浜に落ち、を繰り返している。
時々わざと体を斜めにして落としたりもしている。

今度は男の子が来た。
その子にも大人がついていたが、さっきのおばあさんの所へ行ってしまった。

男の子も一に登り出す。
二人がかりで乗られ、時々一はよろける。それでも貝探しは続けているようだった。
今度は後ろから新しい子が突撃してきた。


あ。こけた。


勢いに負けたのか、一が両手をついて四つん這いになっている。
その上に子供が馬乗りになった。
三人を背中に乗せた一は、今度は頭を低くして子供たちを滑り落とした。

キャーキャーと子供たちは大喜びで落ちていく。
そしてまた貝を拾いだす。

子供に突撃され、引き倒される。
水際でひっくり返され、一は泥だらけになるが、まだ貝を探しているようだ。
それを子供たちが突撃して邪魔をする。

今度は子供たちに海の中へ引っ張られ倒されている。

一の頭から千鶴の事は抜け落ちたらしい。

すっかり子供たちと同じレベルで遊んでいる。
でも、そんな一を見ているのがすごく楽しい。

普段からは想像出来ないほど大口を開けて笑っている。
海の水が塩辛かったのか、顔をしかめている。
子供のころはあんな風に笑っていたのだろうか。


あ、一人増えた。



後ろから来たその子に押され、盛大に海へ倒れて見せた一に子供たちが群がる。

しかし、その一に、後から来た子供の母親らしき人が手を差し出した。
セパレートの水着で、豊満な胸を強調している。
その水着でかがんでいるから、一にはさぞ悩殺ポーズに見えたに違いないと思った。

千鶴は見ないように視線を落としたが、耐えきれず一を見た。
一は手を取っておらず、子供たちから離れてきていた。

濡れて邪魔になった前髪を後ろへ撫でつけながら千鶴の方へ歩いてくる。
その向こうで、さっきの母親らしき人とその友達らしき人が一を見て何か話しているのが見える。

しゃがんで一を見ていた千鶴に、一は握っていたものを差し出した。

「すまない…少し夢中になったようだ」

ぽとりと手の平に貝が二つ落とされた。
同じような模様の貝。
もしかして、と思い、その二枚を合わせてみる。

「あ!」

千鶴の手の中でぴったり合わさった貝に、いつもの微かな笑顔が千鶴に向けられている。

「腹が減った」
「言うと思いました」
千鶴はまったく水にさわらぬまま、笑ってびしょ濡れの一の横を歩いた。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ