◆ 続・妖怪ハンター“S”

□16.疾走乙女の事【3】
1ページ/5ページ

【疾走乙女 11】



**


帰り道。
「父様」
「なんだ」
「今日はお磯さんにお話を伺ったの」
「そうか」
「とても為になったの」
「どのように?」
「本ばかりでは駄目だと知ったの。お話は、本人から聞くべきだと思ったの」
「……。そうか」



これを機に、本の虫を卒業する気なのだろうか?



「……大司おじ様がお磯さんを呼んでくださったの。
おじ様にはどうして私が分かるのかが不思議」



……俺に似ているからだそうだが、そこは俺にも分からぬ……。



「華抑の家はとても伸び伸び出来る。
父様。行かせてくれてありがとうございます」



……我が家では伸び伸び出来ぬ、という事か……。



ずぅんと落ち込んだ斎藤だった。
「……家では、何が気に入らぬのだ?」
「本が読めない。何をしようとしても叱られる」
「……家は嫌いか?」
「……。」
「千花は、母上が嫌いなのか?」
「嫌いでは無いですけれど……」
千花はうつむいた。そして子供らしくない溜息をついた。
「けれど、なんだ?」
「……。困るの」
「何がだ?」
「全部」
「……全部、とは?」
「全部は全部です、父様」
「例えば?」
「本を読むと邪魔をするし、木刀を持って行こうとすると邪魔をするし。
母様は何もさせてくれないから、困るの」
「……木刀?」
「何かありそうなのでしょう? だから身を守ろうと思ったの」



なるほどな。
千花らしい。



「でも駄目だと仰ったの。では父様。何の為に私は剣術を覚えたの?」
「……母上は何故駄目だと言ったのだ?」
「行く時は兄様が一緒だから」
「……。」
理由としてはよく分からなかった。
「大司おじ様は迎えに来て下さった時私たちに、
仕込み木刀を持っているし、おじ様は強いから大丈夫だと仰ったの。
おじ様がお強いのは本当でしょう?
だからお任せする方が良いのだと分かったの。
その上抱っこして下さったの。おじ様が母様なら良かった」



何故急に園田一の話に?
それに、園田一が妻なのは俺が願い下げだが……………………。



尋ねようと思ったが、千花が先に言った。
「……父様。どうして母様は、私が出来る事をしようとすると邪魔をなさるの?」
「そのような事はしてはおらぬと思うが?」
「……邪魔ばかりよ。困るのよ、母様は……」
千花はまた子供らしくない溜息をついた。
話を聞いても千花が千鶴を嫌がる理由が見えてこない。
邪魔をする、と言うが、本を読むのも千鶴はほどほどに許している。
禁止するのは寝る時間になったりした時だ。
うつむいた千花に、斎藤は話を変えた。
「……今日も楽しかったようで良かった」
「ええ、楽しかったです。華抑とお喋りもしたし」
子供らしい話が出てきて、斎藤はホッとして口元を緩めた。




******
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ