◆ 続・妖怪ハンター“S”

□15.疾走乙女の事【2】
1ページ/5ページ

【疾走乙女 6】



園田一は苦笑した。



真面目なお二人だから、糞真面目に先生の話を聞いたんだな……。



「勇三郎君の時と言い、抱え込み過ぎで、頑張り過ぎですよ、お二人とも。
よくもまぁ何年も何年も」
そう言って、園田一は斎藤の杯に酒を注いだ。
斎藤は人形のようにその酒を飲んだ。
「……。園田一。ゆうは、何故俺の話は聞かぬのに土方さんの話は聞くのだ?」
「そりゃ雪村君ならわかるでしょう」
「……好きだから?」
「ええ。副長には惹かれるんですよ、どうしたって。
憧れの人に褒められたいのは普通でしょう?
さっさと副長に頼めば良かったんですよ、勉強もしなさいと一言言ってくれ、と。
っと、今は社長ですね」
「…………。」
「…………」
「正は……」
正(ただし)、とは、六歳の次男で末っ子だ。
正月に生まれたから正。という、斎藤の命名。
「ありゃ中身は雪村君そっくりですね。
だから組長が一言“こうして欲しい”とお願いすりゃ一発でしょう?
何をどうしたら良いか分からないうちはビックリする事をしますんでご注意を。
やる事があるうちは大人しいんじゃないかと思いますけど、違いますか?」
千鶴は赤くなった。
「……何故子供の事がそんなに分かるのだ?」
酒を機械的に飲んだ後、斎藤が尋ねた。
「分かりませんって」
「……でも……あの……では、千花はどうしたら……」
千鶴がおずおずと尋ねた。
園田一は斎藤の杯を満たすと自分の杯も満たして口をつけた。
「どう?とは?」
「言う事をさっぱり聞かなくて……」
「あの時代に左構え押し通した人の子が、人の話など聞く訳無いと思いますけど。
特に千花ちゃんは見た目も中身も組長…っと、また言ってますね、私は。
千花ちゃんは面白いほどはじめさんそっくりですから。
はじめさんもあんな子供だったのかと思うと、人様の子ながら楽しくて可愛くて仕方ない。
良い子ですよねぇ、千花ちゃん。将来が楽しみです」
どうやら千花は高評価なようだが、千鶴の千花への評価は違う。
「……将来……。でも、お料理もお裁縫も全然で……」
「はあ。それで?」
「お嫁に行ったら困るのは本人なんです……」
「千花ちゃんはお嫁さんになりたいんですか?」
「……えっ?」
「はい?」

話が通じなくなった。

そんな気配を三人とも感じ、三人とも黙った。
「……お嫁に行かずにどうするんですか?」
「千花ちゃんは、お嫁に行きたいんですか?」
また沈黙が落ちた。

園田一には分からない。
ずっと、斎藤のやりたい事がやりたいようにやれると良いと思ってきた。
斎藤そっくりな千花に対してもそんな気持ちがある。
千花が何をしたいのか、が、園田一には一番大切な部分だった。
千鶴には分からない。
女の子に生まれたからにはお嫁に行くのは当然。
その為には基本的な事は身につけておくのが当然。
出来なければ千花が恥ずかしく哀しい思いをする。
それは辛い。
女の子に基本的な事を教えるのは母親の役目だと思っている。
それが出来ない自分はとても至らない母親だと思っていた。
だから園田一が言わんとしている事がよく分からなかった。

「……俺たちは千花を叱るばかりで、千花のしたい事を知らないのだな」
「……本を読みたがってますけど。やるべき事もやらないで本ばかりで…」
「……おかしいですね。そんな子では無いと思いますけど……。
さっきもすぐ寝ると言っていたし」
「えっ?!」
「園田一と話して、自分の部屋にすぐ戻ったな」
「……え……」
千鶴はわかり易く沈み込んだ。
斎藤もまた、千花が千鶴を邪魔だと言った事を思い出して暗い顔になった。



え? ……えー……?



揃って暗くなった夫婦に、園田一は困った。
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ