九生

□14
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 ライブラはここ最近、とある事件を追っていた。皆で手分けして情報を掻き集め、十分な証拠が揃ってきたところでさあどうやって解決―――という名の主要組織の壊滅―――をしていこうかとスティーブンが作戦を練っていると、その彼の元へ一匹の黒猫が軽やかに駆け寄った。
 「ミスタ、貴方宛てに手紙が届きました」
 「僕宛てに?」
 その猫の口に銜えられていたのは、一枚の黒い封筒。書類から手を離したスティーブンはそれを受け取り、礼と共に猫の頭を撫でつつ差出人を確認する。
 「お、」
 「?」
 「どうやら”アタリ”だ。リッカ」
 スティーブンは笑みを浮かべてそう言うと、自身の膝を叩いて黒猫を呼ぶ。意図を察した猫がその膝に飛び乗り落ち着いたのを確認した彼は、その封を切り猫にも見えるように便箋を開いた。
 「パーティーの招待状…?」
 封筒に見合った黒い便箋の一番上、そこに書かれていた文字を猫が口にすると、スティーブンは首肯する。
 「今回、君にも手伝ってもらった人身売買の事件があるだろう?」
 「あの、普通の人から珍しい異界の者まで何でもござれな?」
 「ああ。あの悪趣味な連中は、”商品”の人数が揃ったところで定期的に人売りオークションを開催しているんだが……」
 「その招待状が、これだと」
 「正解」
 話の内容は穏やかではないにしろ、褒められ撫でられると悪い気のしない猫は、その手に擦り寄り喉を鳴らす。その猫の様子を弛んだ表情で見下ろし、再びスティーブンが手紙へと視線を向けた。
 「とある筋からその話を聞いてね。次に開催されるオークションに潜入できないかと色々手を打っといたんだ」
 向こうからお呼びがかかって良かったよ。そう言うスティーブンの手に撫でられながら、黒猫も自分で文字の羅列を追っていく。
 「日時は今週末、時間は午後8時から。…?ミスタ、ここ」
 順に読んでいき、必要な情報を仕入れていくものの…最後の箇所に目を留めた猫は、上にあるスティーブンの顔を見上げた。
 「特記事項のところ、”男女ペアでのみ入場可”と書いてありますが」
 「ああ、それかい?恐らく、俺たちみたいな”厄介者”や、警察を入り込ませないための対策だろうね」
 「ええ?それじゃあ…」
 「そこでだ、リッカ。君の出番というわけさ」
 「?」
 首を傾げながら見上げてくる黒猫に、スティーブンはにっこりと笑った。



(君にとっての初任務を任せたい)



 「まあ、そのためにはウチのボスを説得しなきゃいけないんだけど」
 まずは説得に協力してくれるかい?片目を瞑ってそうお願いしてくる上司に、黒猫は短く頷いてスティーブンの膝から肩に飛び乗る。
 そうして動けるようになった副官が席を立ち、猫を引き連れてクラウスの元へ足を向けたのだった。



【15へ】
また続き物が始まります。事件の概要等はふんわりとした感じでお送りしますごめんなさい。お付き合いくだされば幸いです…。

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