九生

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「……ようやく、わたしの“血”に触れてくれましたね」
奇妙な静寂が周囲を包み込んでいる中、聴いたことのない声が響く。決して大きくはないはずなのに、自然と耳に馴染むような、メゾソプラノ。その音源を辿れば、よく見知った仲間と、彼に抱かれぐたりと身体の力を抜いている――恐らく力が入らないのだろう――一匹の黒猫がいる。
その小さな身体にはまあるい穴が開いており、そこからぼたぼたと、赤黒い体液がとめどなく溢れ出してきている。
猫の血液が仲間の手や服を赤く染色していた。
―――さっきの声は、あの猫から?
武器を携えブラッドブリードと闘うくらいだ、普通の猫ではないと思ってはいたが、まさか人語を話せるとは。
少し離れた位置ではあるが見えた黒猫は、浅い呼吸を繰り返しながらも確かに“笑って”いた。
「……これで貴方は、もう動けない」
「、クラウス!今だ!!」
黒猫が言う通り、どういうわけか全く動かなくなった――いや、身体が抗うように震えているあたり、動けなくなったと言った方が正しい――敵を見て、この好機を逃すわけにはいかないとリーダーの名を叫ぶ。
その声に我に返った仲間は、眼前の心臓に十字架を押し当て、そして難無く“密封”した。

カランと音を立てて地面に落ちた、赤い紅い十字架。それは終戦の合図で、張り詰めた空気がぷつりと切れたのを感じた。
しかし、今回はまだ終わってはいない。“敵”との闘いは終わったが、まだ問題は残っている。
そう思い十字架から狙われた仲間と、瀕死であろう小さな存在へと再度視線を送ってみたものの。
「……少年、さっきの猫は?」
「え”っ」
何故かそこには、手と服を真っ赤に染め上げ、声をかけるまで放心していたらしい仲間の姿しかなかった。
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