九生

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少年、レオナルド・ウォッチは“敵”の諱名をその眼で読み取るため、比較的戦闘被害が及ばぬところに避難していた。
吸血鬼の”名”を視て、それをリーダーに伝える―――それが彼の役目であった。
しかし、レオナルドのその眼に視えた名前は二つあった。
正確に言えば、その二つのうちどちらが吸血鬼の名前かはわかっている。すでに先程そちらの“名”をリーダーの端末に送信してあるので、この闘いもあと少しすれば終結するだろう。

だからこそ、彼はもう一つの“名”の方が気になっていた。
二つの“名”が視えたとき、レオナルドの視界に入っていたのは、敵である吸血鬼と件の黒猫であることから、恐らくはその猫の名前なのだろう。そこまでは簡単に推測できる。
しかし、どうしてその“名”が“神々の義眼”に映りこんだのか。問題はそこなのだ。

闘いが終わるから、浮上した問題について考え込んでいたから。言い訳に過ぎないが、レオナルドはこの時、確かに油断していた。
だからこそ、我らがリーダーの攻撃を受けた敵が最後の抵抗とばかりにこちらに向けた刃に気付くのが一瞬、遅かった。
「おいっ!!避けろバカ野郎!!!」
褐色の肌を持つ先輩の慌てた声が聴こえ言葉の意味を理解した時、刃の切っ先はレオナルドの目前だった。
(あ、これ、死―――)
脳が言葉を言い切るより速く、自身の身体にきた衝撃は決して突き刺さるような鋭いものではなく。
胸部に軽く当たる、やわいぬくもりだった。
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