嗚呼、愛すべき恐怖症(仮)
□二人の戦い
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「おお〜広〜。やっぱ運動部に力入れてるトコは違うねー」
海常戦当日。誠凛よりも広々としたグラウンドが俺たちを迎えてくれた。うん、確かに良いグラウンドだな……なんかちょっと走りたい気分かも。
「火神くん」
最後尾から黒子の声。そのワードについビクッとしてしまった。
「いつにも増して悪いです、目つき……」
「るせー。ちょっとテンション上がりすぎて寝れなかっただけだ」
「……遠足前の小学生ですか。それに」
そこで言葉を止めた幼馴染が気になり、後ろにいる二人を振り向いた瞬間。
「うえっ!?」
「僕の幼馴染がいつも以上にビビッてしまっています。できるなら即刻直してきてください」
「無茶振り! っつか如月も目合わせろよ!」
「あ、えと、良い天気だな、火神」
「せめて話を聞け!!」
「……仕方ないですね、火神くん、口と鼻をガムテープで塞いでください」
「え……え!? どういう意味!?」
「もう、これだから馬鹿……ゴホン。簡潔に言えば天へと昇ってほしいんです」
「死ねって言われてる!? ってか今馬鹿って言った!!」
「ハハ、火神くんは今日も元気だなー。え、酢昆布食べたい? ごめん今日は持ってないやー」
「お前はいい加減話を聞け! っつか今日はってことはいつも持ってんのかよ!?」
「は? するめは持ってねえよ」
「するめとか言ってねえよおおおおお!?」
「ちょっとー。後ろの一年三人うるさーい」
火神はいつでも暴食しすぎだよな。
前に一回黒子と三人でマジバ行ったとき俺も食われるかと思ったわ、ハハハー…………いや、マジで。
東のほうを見て現実逃避していると、じゃりっと砂を踏む音がしてそちらを向く。
「どもっス。今日は皆さんよろしくっス」
「黄瀬……!!」
「広いんで、お迎えにあがりました」
どこか違和感なイケメンスマイルを繰り広げたあと、視線は俺の後ろのやつに。
「黒子っち〜。あんなあっさりフるから……毎晩枕濡らしてたんスよ、も〜……」
え、まさか涼ってそっちの人……!
「女の子にもフられたことないんスよ〜?」
「サラッとイヤミ言うのやめてもらえますか」
黒子が黒い……だと!?
「悠馬っちも。また会えて嬉しいっスよ!」
「酷い黄瀬くん! 私のことはついでだったのね!?」
「えええ!?」
あ、俺の裏声きめえ。
でもなんか涼に効いてるっぽいからやめない。
「いいわよ……どうせ私なんかっ、黒子の付属品なんでしょ! そうなんでしょ!」
「ちょ、悠馬っち違うっスよ!?」
少し涙目でわたわたと忙しなく両手を動かしている涼。
「それとも火神!? 火神ちゃんが……ぷっ」
「ちょっ、おま、今何想像して笑った!?」
「ちょっと待ってくださいっス! いくらなんでも火神は……」
「お前も真面目に答えてんじゃねえよ!!」
火神の大声が校舎に大きく響き、少し沈黙。
恥ずかしくなったのかごほんと大げさに咳をした火神は、気を取り直すように涼を見た。
「で、案内……だっけか。早くしろよ」
「分かってるッスよー」
今までの軽いやりとりが楽しかったのか、少し不満げに口をすぼめる涼は歩きはじめるものの、顔は火神にそのまま向ける。
「黒子っちにあそこまで言われるキミには……ちょっと興味あるんス」
「『キセキの世代』なんて呼び名に別にこだわりとかはないスけど……あんだけはっきりケンカ売られちゃあね……。オレもそこまで人間できてないんで……悪いけど本気でツブすっスよ」
「ったりめーだ!」
好戦的な野生の目をしていた火神の顔は涼と並んでもやっぱりイケメンで、イケメンマジ滅べと本気で思いました、まる。