short (進撃の巨人)
□誰もいない空間に「おやすみ」
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今回の壁外調査では失ったものが多すぎた。
使い捨ての刃の如く次々と命を奪われていった兵士、部下。
そして………………
「マリア………」
数日前までは俺の傍で幸せそうな笑顔を浮かべていたはずの最愛の人物。
無惨なことに唯一の遺品となった、マリアが命の終わりまで着ていた黒ずんだ血で汚れた左の袖のないジャケットの自由の翼にそっと触れた。
白と黒の自由の翼にまで黒ずんだ血がついている。
…信じられねぇ。
いや、信じたくない。
今でもいつものようにノックなしに遠慮なく俺の部屋に勢いよく扉を開け、俺の胸に飛び込んできて、俺の名前を呼び、太陽の様な笑顔で俺を見つめるー…………
そんな気がして仕方なかった。
『リヴァイ、リヴァイ!
ねー、リヴァイったらー!聞こえてるんでしょー!返事してよー』
たいした用もないのに無駄に俺の名前を呼んで、俺の気を惹こうとするマリアが、やはり傍にいるような気しかしなかった。
今でもその声が鮮明に蘇ってくる。
失って、改めて大切な存在だったこと、俺の中でのマリアの存在がいかに大きかったかに気づいた。
そして改めて痛感した。
この世界は残酷だと。
マリアのいた世界は美しかったとー…
「おやすみ、マリア」
左の袖のないジャケットを枕元に置き、そっと呟いた。
傍にいた君は、もういない。
ー誰もいない空間に「おやすみ」
今日もまた、そっと独りで呟く。