きみがいた日

□想いは
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*ユリアサイド




―数日後


夜の調査兵団本部の廊下はほとんど人の往来がない。


私はドアの前に立っていた。


コンコン…





「入れ」



軽くドアをノックすると、ドアの向こうから返事が返ってきた。



『失礼します』


私は調査報告書を提出するために兵長の部屋を訪れた。

兵長の部屋は塵一つなく、まさに潔癖症だなと実感させるような環境だった。




『報告書を提出に参りました』


「あぁ」





短い会話が途切れた。


どうしよう…




『……』


「……」




沈黙が私達二人を支配する。



『あの』


私は先に沈黙を切り開き、彼をじっと見つめた。


「なんだ?」


兵長は机においてあったコーヒーを啜った。




『……壁外調査の際は、巨人討伐の援護をしていただき、ありがとうございました…』




「……」



兵長は黙ったまま。



窓から見える満月はもう天上間近だった。



「俺は気になっている女を巨人から野放しにするほど下劣じゃねぇ」



カチャンというガラス音を少したてながらティーカップをおいた。



『え?』



私には彼の言葉の意味が理解できなかった。



「チッ、鈍感だな」



舌打ちの音が嫌に部屋に響く。




そして兵長は椅子から立ち上がり、私の方へ歩み寄ってきた。




思わず後退りしてしまうほどの威圧。



トンとベッドが私の足に当たる。

兵長は私をベッドに押し倒した。






『……へ、いちょう…?』



思考回路が追い付かない。



「この状況を考えてもまだ分からねぇか…?」


兵長は私を見つめた。




「俺はユリアのことが好きだ。だからあの時も援護した」





…え?今、好きだって…言った…?





夢か現実か…誰かが教えてくれるなら教えてほしい。




『……も…』




声が掠れて言葉にならなかった。


「?」


『…私も…兵長のことが…好き……です……』



兵長に見つめられている顔が熱を帯びている。


熱を帯びた頬に兵長の掌がそっと触れた。その部分からさらに熱を帯びる。




「いいんだな?」


兵長は私の耳元で囁いた。



吐息がくすぐったい。




私はコクンと頷く。



そして深く、甘いキスをした。



神様、この幸せが夢でありませんように…







―翌朝



目を覚ますと、横には最愛の人類最強が寝息をたてていた。




―…夢じゃなかった…



そう実感すると、自然と笑みがこぼれた。


綺麗な寝顔…顔立ちが整いすぎて恐ろしいくらいだ。



髪に触れてみた。予想以上なほど女子顔負けの綺麗な髪。


そして刈り上げに触れてみた。

癖になりそう…




そんなことを考えていると、兵長が目を覚ました。


『おはようございます、兵長』


私はまだ眠気の覚めていない兵長にあいさつをした。



「…あぁ」



そう言って兵長は体を起こし、ぐっと伸びをした。


私も体を起こそうとした…が、


『〜〜〜〜〜……っ』



声にならない痛みが腰を襲った。


「痛ぇのか?」



兵長は私に問いかけた。



『大丈夫です…これくらい…』


私は腰をさする。




「はじめてだったんだろ?」



そう聞かれ、顔が赤くなる。




「図星か」


『………』



返す言葉が見当たらないので、私は俯いた。



「心配するな、はじめて奪った責任はちゃんと取ってやる」



そう言って兵長はシャワールームへと姿を消した。
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