With you
□調査兵団は.
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「それは重大な問題だ…
早急に取り掛かるぞ」
*
『…掃除…ですか?』
私達は今、古城を改装した施設…旧調査兵団本部に来ている。
ここに来た理由は……
調査兵団がエレンの身柄を得るために提示された条件のひとつがそうであったから。
まだ分からないことの方が多いし、壁から離れた位置にあるから身柄を置くのにちょうどいいと考えたのだろう。
壁から遠ければ壁を破壊される可能性が少なくなるからだろう。
そして、ここを掃除をしなければならなくなった理由は数十分前に遡る。
*
『ねぇ、エレン…あの人だよね?さっき乗馬中にエレンの横でおもいっきり舌噛んでた人……』
私達はここまで乗ったきた馬を小屋に入れ、手入れをしている最中。
その馬小屋の外にある井戸に人影が2つあった。
私が言いたかったのは、井戸の側でしゃがみこんでいるちょっと老け顔の人の方。
「あ…あぁ…」
エレンは苦笑いしながら答えた。
そりゃ先輩兵士が乗馬中に喋って舌噛むなんてマヌケな姿見たらびっくりするよね。
先輩兵士にこんなこと言うのは失礼だが、私達の心の中で思ったことだし、口にしなければ大丈夫だろう。
性格上そんな毒舌吐くキャラでもないしね。
その人の側で立っている女の先輩兵士も呆れた顔つきをしている。
「乗馬中に喋ってれば舌も噛むよ」
女の先輩兵士の声がした。
私と同じ思考回路のようだ。いや、誰もがそう思うか。
「…最初が肝心だ…
あの新兵、ビビっていやがったぜ」
どこをどう見ればエレンがビビっていたんだろうか、あの先輩はバカなのか?
「オルオがあんまりマヌケだからびっくりしたんだと思うよ」
ごもっともな意見だ。
私達は先輩達のやりとりを横目に馬の手入れを続けた。
「…何にせよ俺の思惑通りだな」
そんなことを言っている先輩…オルオさんは口元を手で拭った。
「…ねぇ、昔はそんな喋り方じゃなかったよね?
もし…それが仮にもし…リヴァイ兵長のマネしてるつもりなら…本当に…やめてくれない?」
女の先輩兵士は少しひきつった顔で続けた。
「イヤ…まったく共通点とかはかんじられないけど…」
私も同感だ。
リヴァイ兵長の喋り方をじっくり見ていたわけでもないし、ずっと彼のことを知っていたわけでもないけど…あんなのではなかったのは確かだと思う。
「フッ…俺を束縛するつもりか、ペトラ?
俺の女房を気取るにはまだ必要な手順をこなしてないぜ?」
オルオさんはどこまで自意識過剰な人なんだろう…
初対面ながらひいてしまう。
「兵長に指名されたからって浮かれすぎじゃない?
…舌を噛み切って死ねばよかったのに…」
なかなかの毒を吐いた女兵士のペトラさん。
「…戦友へ向ける冗談にしては笑えないな…」
オルオさんはそう言うけど、ペトラさんの顔は本気でそう思ってる気がする。
エレンの方をチラリと見ると、馬の手入れをする手が止まり、先輩達の方に目がいっていた。
エレンの事だから何かしら深刻なことを考えてるんだろう。
そう、これが調査兵団特別作戦班、通称“リヴァイ班”。
私とエレンが所属することになる班だ。
そしてエレンが“巨人の力”を行使した際の抑止力。
エレンが暴走した時は、彼らによって殺されてしまう。
暴走なんてしないと信じたいけど…
きょろきょろと辺りを見回すと深刻な顔つきをするリヴァイ兵長が目にとまった。
隣にいる兵士と話をしている。
「久しく使われていなかったので少々荒れていますね」
「それは重大な問題だ…
早急に取り掛かるぞ」