With you

□残酷な現実を.
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「巨人だ・・・こっちに近付いてくる!」

駐屯兵の男性が額に冷や汗をかきながら、呟いた。

「マリア・・・お願い・・・行って・・・」

母親はか弱い涙声で私に懇願した。

巨人の足音が徐々に近付いてきた。

『いや、いや・・・!』

私の目から次々と涙が溢れてきた。



「駐屯兵さん・・・この子を、連れて・・・

逃げて・・・」

「しかし・・・!」

母親の頼みに駐屯兵の男性は困惑した。

ただ、このままでは全員助からない。

そう判断し、それを訴える母親の瞳に敵わなかった。

駐屯兵として、全員を助けることが最善。

最善を尽くさねばならない。

だが、全員を助けることは不可能、その現実が痛いように身に感じられる。



駐屯兵は私を抱き抱えて走り出した。

『おじさん、何するの?!』

「決まってんだろ!ここから逃げるんだ!」

走りながら駐屯兵は叫んだ。

『だってお母さんが、まだだよ!』

私も負けじと叫んだ。

「俺は医者でも英雄でもねぇ!!

全員助けることが最善なのは十分承知だ!

だがな、お嬢ちゃん、時には何かを犠牲にしなけりゃなんねぇ事もあるんだ!」

涙ぐんだ声で叫ばれて、私は何も言えなかった。

ただ、心の底から何かが込み上げてきた。

『いやあああああああああああああああああ!!!』

母親が巨人の口に収められたのはその後すぐの出来事だった。

母親が巨人の餌食となった。

辺りには生々しい血が飛び散った。

その現実があまりにも信じ難く、私は気を失った。
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