きみがいた日

□現実は
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*ユリア


『へい…ちょ…う……』


力を振り絞り、兵長を呼んだ。





「どうした?!」


兵長はやっぱり取り乱している。


そんなに心配してもらえて…嬉しいな。

『…わた…し…へいちょ…うと……一緒に…いられ…て……し…あわ…せ…でし…た……』



だめだ、本当に声を出すのも辛い。



視界もぼやける。兵長の顔がはっきり見えない。



光さえも微かにしか入ってこない。





最期に…兵長の顔が見たいのに…




「何言ってんだ!


これから壁の中に戻って…これからも壁の中でも外でも一緒だ!


今から死ぬみたいな言い方してんじゃねぇ!!」


兵長はそう叫んだ。





今から死ぬみたいな言い方…か…


でも、今から死ぬのが現実なのだろう。




医療班が来ても、きっと手遅れな状態だ。


どちらにせよ私は死ぬんだ。


それが受け入れなくてはならない現実。


兵長の気持ちはすごく嬉しい。


でも……


私はもう死んでしまう。


この現実を受け入れなくちゃならない。


これは調査兵団に入った時から覚悟していたことだ。


自分の命など惜しくなどない。



「ユリアー!リヴァイー!!」


ハンジさんの叫び声が微かに聞こえた。


「ユリア!!」


この声は…兄さん…



ガチャガチャと医療班の人達の作業する音も聞こえる。



ハンジさんと兄さんは馬を降りるなり私に駆け寄ってきた。



「ユリア!しっかりするんだ!!!」


兄さんの手だろうか…私の手を強く握った。




…温かい。


「ユリア!!!」


兵長の私の肩を抱く力が強まる。


「ユリア!」

ハンジさんの声も聞こえる。


あぁ……私は愛されていたんだな…


この人達を置いてこの世を去るのは辛いなぁ…




命は惜しくない、だがこの人達とは別れたくない。


そんな心の葛藤が私にはあった。


涙が頬をつたう。



『ハンジ…さん……』

「何?!どうしたの?!」

もう長くない、そう悟った私は最期に言葉を遺そうと思い、残っている力を振り絞った。


『私の…見方を…してく…れて……あり…がとう…ございま…す……』


「そんなことないよ…!これからも、ずっとそうだよ!」


ハンジさんは涙声だった。


…泣かないで、ハンジさん



『兄さ…ん……私の…兄で…いて…くれ…て……あ…りが…とう…』

「私はずっとユリアの兄だ!」

私の手を握る力が強まる。



…兄さん、今思えば妹思いの兄だったなぁ。




『へい…ちょ…う……愛して…くれ……て……ありが…と…ござ……い…ま………』

ふっと意識がとんだ。




あぁ、私、死んだんだ。すぐに分かった。



本当に…ありがとう…




私はみんなの側にいられて幸せでした…



ハンジさん、私達のことを見て楽しんでましたよね。

本当に困った先輩でした。

でも…辛いときはずっと側にいてくれた。

悩んでいるときはすぐに気づいてくれた。

そんな素敵な先輩でした。



兄さん、ずっと会わない間にこんなにシスコンになっているとは思いませんでした。

時には本当に鬱陶しくて困り者の兄でした。

でも…小さい頃から私を守ってくれた、大好きなたった一人の私の兄でした。



兵長、鬼畜だし極度の潔癖症だし、本当に困った人でした。

でも、私を本当に愛してくれた……

私の自慢の大好きで大切な人でした。






本当に…ありがとう。
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