Rum Ball

□第2章
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「ったく、おい!!ついてくるなと言ってるだろ!!」


俺は桜散る夜道で、足元に擦り寄ってくる黒猫に怒声を飛ばす。

俺が叫んでも黒猫は物ともせず、後ろにピタリと付いてくる。

前を向いて黙々と歩いても、あいつの首についている鈴が鳴るたびに徐々に怒りが蓄積していく。

・・・どうやら懐かれてしまったようだ。

たかが魔が差して猫に話しかけただけなのに。

ダッシュして走っても、信号に引っ掛けても、必ず後ろにいる。

そうこうしてる内に自宅へ着いてしまった。

日吉は舌打ちをすると、視線を足元の黒猫に落とす。

猫はちょこんと座って首をかしげている。

そんな猫に日吉は呆れた口調で言った。


「・・・今夜だけだぞ」


猫は呑気にポリポリと首を掻いている。

全く・・・。

明日の朝になったら玄関からほっぽり出して締め出そう。

黒猫は俺の言葉が分かるのか
タイミングよく“にゃあ”と返事をした。

・・・とは言っても猫の食事ってどう作ればいいんだ?

日吉は台所で頭を悩ませていた。

動物なんて飼ったことがないし、当然それ用の餌もない。

自分で作るしかないだろうという結論に至ったのだ。

俗に言う"ねこまんま"という物を作ってみよう。

日吉は自分のうろ覚えな知識を頼りに、台所にある材料をかき集めていく。

といっても材料自体少ないが。

ご飯にお茶、そして鰹節。

猫愛好家はそれプラス豪華な物を入れると聞いていたが、

別にこれでもいいだろうと猫が食べやすそうな平たい皿に入れ、猫を閉じこめておいた・・・。

いや、猫のいる自分の部屋へと戻る。

襖をあけると猫が敷き布団の敷いてある窓側にちょこんと座り、大きな満月を眺めていた。


日吉は部屋の中心に新聞紙をひき、その上にねこまんまを置く。


"チリン"


猫がこちらにやってきてそれをクンクンと嗅ぐとペロペロと食べ始めた。

その様子を見ると途端にホッとした。

食べてくれるかどうか不安だったのだ。

それにしても・・・

どこかの飼い猫だろうか?

一応首輪という首輪ではないが古臭い鈴がついているし・・・。

黒い毛も妙にツヤツヤと整っている。

スラリとした細い身体からは余計な肉がついていないように見えた。

どこかの金持ちが飼っている猫か?

そうじゃなきゃこんな綺麗な野良猫なんて見たことも聞いたこともない。

日吉がしゃがみこみ、ジッと黒猫の様子を観察しているとフッと顔を上げ、また"にゃあ"と鳴いた。

日吉はおそるおそる指の腹で黒猫の頭を撫でると、少しうつむき、目を気持ちよさそうに閉ざす。

・・・かわいいな

素直にそう思った。

手を引っ込めるとまた食事に戻る黒猫。

食べ終わるまでに時間がかかりそうなのでその間に風呂でも入ろうと立ち上がる。

そういえば親にはどう説明しようか

・・・まあ今夜だけだし、別にいいか。

そんなことを考えつつ風呂に向かっていった。

風呂から上がって歯を磨き、再び部屋に戻ると黒猫は見事にねこまんまを平らげ、また窓側で満月を眺めていた。

こぼしても畳が汚れないようにと新聞紙を敷いていたが、その心配は無かったようだ。

米粒一つ落としていない。

利口な猫なんだな

日吉はただそう思っただけだった。
そうして彼も窓側に行き、敷いてある布団にゴロリと仰向けに寝転がる。

そうすれば窓枠に座っていた黒猫が日吉のお腹にストンと乗ってきて黒猫に見下ろされる形となった。

日吉はまた指先でチョイチョイと喉元をくすぐると黒猫は気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らす。


「いいな、お前は悩みが無さそうで」


日吉がそう言うと猫は気持ちよさそうに閉ざしていた目を静かに開く。

けれども彼はそれには気づかず、黒猫に愚痴をこぼす。


「早く、跡部さんを下剋上しなければ・・・俺は・・・」


"チリン"


「ならば、行動に移せば良い」


鈴の音が鳴るのと同時に老婆のような声がどこからか聞こえた。


「なっ・・・!?」


日吉は驚いて身体を起こし、布団からでると黒猫は素早く飛び退き、布団の真ん中にちょこんと座った。

まさか・・・?

いや、そんなはずは。

日吉は驚きのあまり飛び出そうな心臓を押さえつつ、黒猫をみる。

猫の大きな瞳と日吉の瞳がしばらく混ざり合う。

先に行動を移したのは黒猫の方だった。


「そんなに警戒しなさるな。まあ無理もないがの」


ごく普通に言葉を話し始める黒猫。

声は先ほどと同じく老婆のような声だった。

日吉は驚きと興奮で言葉が発せられなかった。

風呂から上がったばかりだというのに
冷や汗が額から噴き出る。


「しかし人間。先ほどの一人言はお主の望みか?」


黒猫は淡々としゃべり続ける。

日吉も早くに落ち着きを取り戻し始めていた。

常識では考えられない。

けれど、実際に自分の前で起こっている。


「あ、あぁ」


黒猫の問いかけに一応頷いてみる。

望みなのは変わらないし、これから俺自身が実行する事だからな。

俺がそう答えると黒猫は闇にポッカリと浮かぶ大きな満月を背に俺に言った。


「ならばその望み、わしが手伝ってやろう」


は・・・?

俺がまばたきをした瞬間に黒猫は女の子の姿に変わっていた。









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