Rum Ball

□第1章
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さわさわと弱い風が吹いている。
それにともなって桜の花びらも綺麗に宙を舞う。

お日様も、サンサンと自身を照らし、気分もつい陽気になってきそうだ。

しかし、日吉若はそんなことを気にしもせず、ただ黙々と学園に向かって歩く。

今日から新学期。

日吉も晴れて2年生になる。

よって今日は学級発表と全校集会のみだ。

どうせ全校集会では部長が目立つんだろうな。

あの人のことだ。

今年も派手な祝辞に違いない。と日吉は考えていた。



――――――。



結果、確かに日吉の思っていたとおりだった。


『・・・続いては生徒会長より、祝辞の言葉です。どうぞ』


すると2年生・3年生の女子がざわざわと騒ぎ始める。

そして、その騒ぎ声にも勝る存在感の足音が脇から聞こえてきた。

そしてステージに我が物顔で現れたのはこの学園の生徒会長。

および、テニス部部長の跡部景吾だ。


「「きゃぁぁぁぁああ!!跡部様あぁぁぁああ!!」」


周りの女子の声がはち切れんばかりにホールへと響く。

日吉は思わず眉を潜めた。

甲高い女特有の声が鼓膜に突き刺さるようだ。


「「氷帝!氷帝!氷帝!!」」


そして全体で氷帝コールへと化した。

1年生は状況を飲み込めず皆ポカンとしている。

先生たちは呆れた顔でその声を注意しようとも止めさせようともしない。

もはや“氷帝コール”は日常化していた。

はぁぁぁぁ・・・。

日吉は大きなため息をついた。

毎度毎度のこのコールに嫌気がさしてくる。

そんな日吉とは裏腹に、跡部は一通りこのコールに浸ったあとスッと手を伸ばした。

その瞬間、コールはさらなる盛り上がりを見せ・・・。


パチンっ!!


綺麗に響く指の音と共に消えた。

それは何度聞いても洗礼されていると思ってしまうほど綺麗だった。

それほど全校生徒(っと言っても女子のみ)に跡部景吾は慕われているようだった。


「1年生!!入学おめでとう。毎年言っているが、

ここでの学園生活を生かすも殺すも自分次第だ。しっかり勉学や部活に励め!

2年生!もう学園生活には慣れただろう。そしてお前らはもう一番下じゃねえ、先輩となった。

模範となる姿を1年に魅せてみろ!

そして・・・3年生!!今年がこの氷帝学園で過ごす、最後の年となる。

悔いを残さぬように過ごすんだな。以上だ!!」


それだけ一気に言うと満足そうな笑みを浮かべ、ステージを降りてゆく。

一斉に沸き起こる拍手。

日吉も乗り気ではなかったが一応手を叩く。


「よくやれるな、あの人は」


まるで他人事のようにポツリとつぶやいた。





それから部活の時間になり、テニスコートは、1年生の仮入部の奴らでいっぱいになる。

全く、何人いるのだろうか・・・。

ただえさえ200人以上も部員にいるのに、これ以上増やしたらパンクしてしまうのではないかと心配になってしまう。


「今年も人がたくさん来たね」


ウェアを着ながら鳳が話しかけてくる。

その顔はとても嬉しそうだった。

ったく呑気でいいな、コイツは。


「そうだな、出来る奴がいればいいが」


そう。本当にここは実力社会なのだ。

年齢、学年関係なく、強いものがレギュラーとなっていく。

日吉も実力でレギュラーを勝ち取るつもりだ。

つまり “下剋上”が大切になってくる。


「日吉君が逆に下剋上されないといいね」


笑いながらも無残な言葉をふっかけてくる。

これが自然体で出来る男はそうそういないだろう。

負けずと日吉も言い返す。


「わかってないな、鳳。俺が下剋上しても、されることはありえない」

そう笑いながら鳳に言うと彼もまた笑い返す。

そういって身体を温めるためにジョギングから始めた。

走るごとに今年のテニス部に入る1年は本当に多いと感じた。





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