跡部王国

□生徒会室へ気持ちを届けに
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跡部様Birth day夢小説








跳ね上がる鼓動を制服の上から無理やり押さえる。

ポケットの中からもう一度鏡を取り出して、髪型チェックをした。

スカートも手で押さえつければ、なんとなく整ったような気がして。

手に持つ小さな紙袋を思わずギュッ…と握ってしまう。

そんな自分の視界には「生徒会室」と無機質に記されているドアしか映し出されていなかった。

このドアの向こう側に彼が居る…。

そう考えるだけで心臓がまたドンクンと跳ね上がって、収まることを知らない。

顔が赤くなるのを感じる。また手足の震え。

緊張。

ただ私はプレゼントを渡すだけではないのだ。

…自分の気持ちを告げようか、どうしようかを考えて結局、することに決めたのはいいけれど。

なかなか踏ん切りがつかない。

だから、今こうしてなかなか部屋に入れないでいる。

ドアを叩こうとしていた手を何度引っ込めたことかと、悩ましげに自分の手に視線を落とした。

別に…振られてもいいのだ。

自分の気持ちを言うだけ言って、すっきりしてしまえばいい。

私は思い切り息を口から吸い込み、自分の不安もろとも空気を思いっきり吐き出した。

コンコン。

少しの待つ時間が私を目眩の中へと引き込む。

彼が答えるまでが異様に長い気がした。


「入れ」


ようやく彼の声がして、私は失礼します、と彼と同じ空間に立った。

彼は奥の豪華な椅子に座っていた。

傍らには大量のプレゼントがあって、私はズキンと心が痛む。

分かっていたのに。彼は人気者で、皆に好かれていると。

到底、私の手が届くような人ではないのに。

そう思えば手が震えて、持っていた紙袋が小さく揺れた。

彼とはよく話す。

同じクラスで、席が近くて。

最初は無造作に遇らわれていた私だったけれど、気が付けば彼と笑い合うことができていて。

よくある事だ。そのままその男の子を好きになってしまうのは。

目から熱いものが込み上げてくる。

私は、馬鹿なのかな。

こんな、もう彼の部屋に入ってしまった状態で、こんなにも深く考えて、こんなにも後悔するなんて。

グスッと鼻をすすれば、椅子の動く音がした。

彼が眉間にシワを寄せて、こちらへ向かってくる。

私は思わず逃げようとしたけれど、彼が私の手をガシリと掴んで離さなかった。


「なに泣いてんだ」


彼は私の顔を覗き込む。

綺麗な瞳だ。真っ直ぐで、透明で、全てを見透かされる。

今の私はそんな彼の目を見れなかった。

精一杯首を振って大丈夫だと示す。


「いつもみたいに俺様の目を見ろよ」


強引に顔を寄せられて、ズイと顔が近くなる。

思いっきり目が合えば、彼は優しく微笑んだ。

出来るじゃねーか、と呟いて。

私は思わず両手を突き出して彼を離してしまう。

紙袋が彼の身体にポコンと当たった。


「あん?…これは」


彼に紙袋を奪われる。

あ、と言葉がもれたけど中身のものにはしっかり『跡部くんへ』と書いてしまった。

それを彼が見るとニヤリと笑った。


「なにか俺に言うことがあるんじゃねーの?」


私は口を数回泳がせて、お祝いの言葉を言った。



※跡部様にお祝いの言葉を!










私の全力と、誠意を込めた言葉が室内に反響した。

運動なんてしてやいないのにどうしてだか息が切れる。

顔が熱い、心臓が痛い、手足が震える。

でも、まだ彼にお祝いの言葉を告げただけ。

告白まで、至っていない。

のに、もう私は限界が近い。

これ以上言うのは無理かもしれないと思った矢先に彼の香りが近くなった気がした。

俯いていた顔を上げて彼を見れば、彼も顔が少し赤かった。

もしかして気に入らなくて、怒りで赤くなっているのかなと一瞬思ったけれどそれは違うみたいだ。

彼は私の頭を優しく撫でる。

私は驚きと戸惑いで、息を飲んだ。


「ありがとう。…これ開けていいか?」


私は考えることも忘れ、コクンと単純に頷く。

ガサガサと彼が袋を開ければ、包みの中からクマのぬいぐるみがひょっこりと顔を出す。

私がいろんな店を探して、やっと心に決めたクマさんだった。

彼は一瞬それに驚き、じっとクマさんを見た。

私は彼の鑑定、評価をドキドキして待つ。

すると彼はクスリと笑い、顔を上げた。


「もしかしてこれは俺様のつもりか?」


私はその言葉にパアッと顔を輝かせた。

そんな私の表情を見て彼も満足そうに微笑んだ。

渡したクマさんは氷のジャージを着ている。そう、氷帝ジャージ。

右手にはお菓子で付いてきた小さなラケットを縫い付け、左手にはフェルトで作った薔薇を持たせてみた。

その薔薇を、彼が今ツンツンと指で弾いて遊んでいる。

そんなクマさんの右目の下には。


「フッ、こいつ、俺様のチャームポイントまでお揃いなのかよ」


彼はクツクツと喉で笑いながら泣きぼくろを押した。

私はそれにまた笑顔で頷く。

心には安堵が、身体には温かさが広がる。

良かった、喜んでくれて。

彼がふと私を見て、青い目を優しく細ませた。


「お前、こいつにキスしろよ」


そう言ったかと思うと、クマさんの両脇を持って私へズイと近づける。

私は思ってもみなかった彼の言葉に、一瞬ポカンとしてしまう。

それから泣きぼくろクマさんと見つめ合ってしまった。

そんな私たちの姿を見て彼はクスリと失笑する。

なんだ、できないのか?という言葉がなんだか私には官能的に思えてクラリとする。

それから彼はクマさんを自分へと向けて、彼の形の良い唇をクマさんの、ふにゅんとした口へキスをした。

チュ。

水を含んだ音が私の耳へと優しく響く。

そしてまたクマさんを私の方へ向け、ほらお前も。と促された。

私は再び泣きぼくろクマさんと見つめ合う。

収まっていた鼓動が再びビートを刻む。

顔が赤くなっていくのを感じる。

けれど彼もやってくれたんだと自分に言いつけて、彼からクマさんを手にとった。

チゥ。

彼ほどまでにはいかない不慣れな水音が私の口から漏れれば、彼が優しく微笑んだ。

その微笑みが私の胸へとキュンときて、私は思わずクマさんを見つめた。

彼と同じ青い目はとても綺麗だ。

私はクマさんの目を真っ直ぐ見てから、彼の目へと移す。


「私、跡部くんの事だいすきです…」


…ああ、俺もだ。

と彼の唇が動くのが、まるで夢みたいで。

恋人みたいに自然と抱き合う自分がおかしくて。

涙が出て、嬉しくて、高まって。

私たち二人は互いの唇を重ねる。







誕生日、おめでとう。跡部君。

生まれてきてくれて、ありがとう。

大好きだよ。








END 20141004
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