跡部王国

□Surprise of surprise
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部室の部長室のソファに腰を下ろす。

高級感漂う柔らかな弾力が俺をすんなりと受け入れた。

思わず自然とため息が出る。

今日は朝から疲れた。

どうしてかと人は問うだろうが、その答えはたった一言で片付き、それでいてすぐに納得するだろう。

その答えとは。

誇り高き俺様の誕生日。

その名目が10月4日に張り付くだけで、雌猫どもが血相を変えて俺に貢献をしたがる。

ま、それはいつもの事だが、今日は特にだ。

毎年の事ながら、女どもの勢いと執着に疲れずにはいられない。

別に嬉しくない訳じゃない。

気持ちと態度は最も欣快するところではあるが…量に困る。

手紙にプレゼント、そしてお菓子。

彼氏がいる女ですら俺に渡すものだから、学園中の殆どの女が俺に渡したといっても過言ではないだろう。

なので毎年トラックを持参してきている。

そのことに俺は思わず鼻で笑い、髪をかきあげた。

欠伸をし、伸ばしていた足を組み替えて膝に手を置く。

コキッ...と首を鳴らせば本当に疲れているんだと感じた。

背もたれにもたれればもたれるほど自分が眠りに落ちていきそうなのが分かる。

昨日、夜遅くまで生徒会の資料に目を通していたからな…。

それとも、今朝の過度の乗馬で疲れが溜まってんのか?

それとも、それとも…。

無理やり思い出さずとも次から次と、疲れの原因かと思わせる出来事が頭をよぎる。

次第にその出来事が頭の中でうやむやになり始めた。

ボーッとしてきて働かない。眠い。

ああ、まだこれから部活があるっていうのに。

そういや最近、全く休んでないように感じる。

もうちっと…自分の身体、労わるか、な。

俺は制服姿のまま無防備にも身体をソファに投げ出し、意識を手放した。






耳の鼓膜が少しの喧騒で震える。

俺は手放した意識を徐々に手繰り寄せた。

そして完璧に意識を自分の手に取り戻した時、思わずソファから飛び起きた。

今何時だ!?どれぐらい寝ていた?

壁にかけられているシックな時計を見れば、針は5時半を指していた。

マジかよ!!チッ…誰か起こしに来いよな!

心の中で罪のない部員たちに毒気づいて、俺はバタバタとジャージに着替える。

そしてその勢いのまま部屋を飛び出そうとドアノブに手を伸ばし、押したところでその勢いは途切れた。

開かないのだ。

なっ…!?

押しても引いても開かない。鍵ではない何か、そう、向こう側で何かで塞がれているような。

俺は耳を澄まして、ドアに寄せる。

すればガヤガヤと複数の人物の声が聞こえ、一先ずはホッと胸をなでおろした。

しかし、だったら何故俺を閉じ込めたんだと、腹が立ってきた。

拳を握り締め、俺はドアを叩く。


「おい!開けろ!!誰かいるんだろ!?」


そう問えば、ドアの向こう側の喧騒は一回り大きくなる。

それをよくよく聞けばレギュラーメンツらしい。

あいつら、一体何のつもりで…!

そのことが分かると俺は『遠慮』なんて物は捨て、全力でドアを蹴破った。

しかし予想以上にすんなりと開いて、俺は勢いのまま床に突っ伏した。


「ッ!?ィッテ!」


パンパンパーン…ッ!!

頭上で軽いものが弾かれたかのような音が俺の耳に反響した。

一瞬、頭の中が真っ白になり、俺は刹那で本当に間抜けな顔をしていたんだろうなと思う。

体勢を立て直して床に座り込み、なおも状況が掴めない俺の視界にいつものメンバーが映る。

皆が手に持っているクラッカーが音の発信源だと理解するのに数秒かかった。

飽きるほど見慣れているアイスブルーのジャージを皆が纏っている。

俺も、たった今それに着替えてきた。

もっと上を見上げれば、皆の顔が見えた。

忍足、向日、宍戸、鳳、日吉、滝、樺地。

皆、微笑んでいた。

それから同時に大きな口を開いて俺に言う。


「「誕生日おめでとう!!」」


…ございます!!と日吉と鳳、そして樺地の語尾だけがポコンと残る。

俺はユルユルと自分の口角が上がっていくのを感じた。

床についたままの手をギュッと握る。

そんな俺にポンポンとプレゼントを押し付ける。

俺は慌てて、それらを腕の中に収めた。

皆の文字で書かれた色紙。

ぶ厚いフォトブック。

パチクリとそのプレゼントを見る俺に皆が声を掛ける。


「用意するの大変やったんやで、なあ岳人」

「あぁ!そのフォトなんてな、殆ど跡部のファンクラブの女子から頼み込んで貰ったんだぜ」


向日が俺の側でしゃがみ込み、フォトブックをぱらりと捲った。

そこには普段の学校生活の俺や、部活中、試合中の俺の写真が収まっていた。

タダの俺様の盗撮ブロマイドかと思ったが、それは少々誤解があったようだ。

全ての写真に俺以外の奴も写っていた。

忍足や向日にゲームを勧められ、頭を悩ましながらプレイする俺の姿。

宍戸とバス停まで競争する俺の姿。

練習中の鳳をバックに滝のストップウォッチを覗き込む俺の姿。

他にもいろいろある。

関東大会での俺と手塚の試合の写真。

全国大会での俺と越前の試合の写真。

すべてが懐かしく思えた。

俺が淡々とそのフォトブックに視線を落としていると、日吉が割って入ってくる。


「ちょっと跡部部長、こっちの色紙も見てくださいよ」


日吉は俺の懐にある色紙を奪い、ズイと目の前に差し出す。

俺はそれをされるがままに受け取り視線を落とす。

そこにはカラーペンで綺麗に縁どられた皆の文字が俺に語りかけてきた。


『必ず下剋上を果たして見せます。 日吉』

『跡部と試合すると超楽しいCー!またやろうね!! ジロー』

『跡部さん、誕生日おめでとうございます 樺地宗弘』


他にも長ったらしいと言えるほどの皆の気持ちが溢れ出ていた。

俺は夢中で読みあさると、ジンと目の奥が熱くなって思わず上を見上げた。

すると目の前に、燻るように香り、色鮮やかな花束が。

それを差し出しているのは樺地。

その巨体に隠れるようにして、後ろからメンバー全員がひょっこりと顔を出す。

そして、皆がもう一度俺に向って言った。

差し出されている花束に負けないくらいの、特大の笑顔で。


「「改めて、誕生日おめでとう!!」」


こいつらでしかこの熱いものは流せない。

こいつらでしか創り上げることの出来ないプレゼント。

感情、記憶、そして笑顔。

グッと込み上げてくる感情のまま、俺は表情を変化させた。


「…ありがとう」


俺は目尻から熱いものを溢れさせた。

らしくない涙が俺の頬を飾る。

そして俺は笑顔になった。


「最高のプレゼントじゃねーの!!」










END 2014/10/4
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