跡部王国

□Elementary school
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その子は泣いていた。

初めて出会った時から泣いていた。

雨がザアザアと降りしきる中、

その子のしゃくりあげる声だけが俺の頭の中で響いていた。

それは、どうやら俺が同情したらしかった。



その日、学校の廊下でその子と出くわした。

その子は俺の真正面からトボトボ歩いてきた。

そして俺は立ち止まった。

その子も俺の目の前で立ち止まった。

その子は咄嗟に袖でソレを拭った。

俺は真っ直ぐその子を見つめた。

だけどその子は顔を上げなかった。

その子は溢れ出てくるソレを必死に拭っていた。

その子の短くフワフワな髪からポタポタリと外の雫が垂れていた。

俺は思わず、どうした。と聞きそうになって、止めた。

頭の悪い俺は、声を掛けたところでどうしたらいいのかが分からなかった。

途端にその子は走り出した。

俺を押しのけて走って逃げた。



その子からは雨の香りがした。



それから幾度となくその子と出会った。

その子はいつも泣いていた。

目を腫れ上がらせて泣いていた。

俺も、泣きたかった。

一緒になって泣きたかった。

でも、泣けなかった。

自分のプライドが邪魔したからだった。

負け続けて地面に屈しても、

いつもコートの汚い砂を食わされようとも、

擦り傷、切り傷が無限に増えようとも、

俺は泣けなかった。

でも、自分だって泣きたかった。

俺だって人前で泣いて、心配されて、抱きしめられたかった。

だけど俺は泣かなかった。

だから俺はその子に声を掛けなかった。

その子が小さな口をつぐんで俺の横を通り過ぎた。



その子からはいつも雨の香りがした。



とある日、出会ったあの子は泣いていなかった。

真っ直ぐに前を見つめ、希望に満ちていた。

輝いていた。

俺は自分がすごく惨めになった。乏しくもなった。

俺はその子のあとを付いていった。

その子は大人と話していた。

真っ直ぐな瞳を向けて話していた。

引っ越してしまう、俺は会話の内容でそう理解した。

大人が去ったあと、そこには俺とその子だけが残った。



俺はその子を真っ直ぐ見た。

その子も今度は俺を真っ直ぐ見た。

綺麗な瞳をしていた。透き通るような瞳をしていた。

俺が初めて見たその子の瞳だった。

その子は何の表情もすることなく俺を見つめた。



「もう、泣くなよ」



気がつけばそう言っていた。

なんだかわからないけどそう言っていた。

俺がそう言えば、その子は微笑んだ。

リンゴのような真っ赤なほっぺたが可愛らしかった。

短くフワフワな、美味しそうな髪を揺らしてその子は小さな口を開いた。



あなたも。もう泣かないで。



その子が小さく呟けば、何もかも見透かされいているような気がした。

呆気に取られている俺の横をその子は通り過ぎた。



その子からはお日様の香りがした。














Fin. 2014/2/13
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