跡部王国

□王様のわがまま
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携帯の着信音が真っ暗な部屋に鳴り響いている。

それがあまりにも耳障りで私は目を覚ました。

・・・電話?今、何時・・・。

枕元にある目覚まし時計を見ると針は11時50分を指している。

誰・・・?こんな時間に。

携帯をもぞもぞと探し出し画面を見ると、

そこには自分の彼氏の名前が表示されていた。


「どうしたんだろ、何かあったのかな」


その間にもしつこく着信音は鳴り響く。

その音に煽られながら急いで通話ボタンを押す。


「もしもし・・・?」

「・・・跡部だ」


その声は少し苛立っているように思えた。

電話に出るのに時間がかかったからだろうか。

けどこんな時間にかけてくる方がどうかと思うけど。


「どうしたの?こんな時間に」

「フン、こんな時間だからこそだ。今日を何日だと思ってる?」


私はベッドにゴロゴロしながら考える。

今日?・・・今日は


「10月3日だけど・・・。」

「ああ。そして今は11時50分だ。あと10分したらどうなる?」


ん?どうしてそんなに回りくどい言い方をするんだろう・・・。

私は思わず時計を手に取り目を凝らしてよく見る。


別に目が悪いわけじゃないけれど、

そうでもしないと起きた直後は視界が悪すぎるから見えない・・・。

目をこすりながらじっくりと見る。


「12時、10月4日だけど。・・・あ」

「気づいたか?」


跡部君の声が少し軽快になったように聞こえた。

跡部君は自分じゃ気づいていないけど結構、声や表情に出るんだよね。

それがまた可愛かったりする。


「でもまだ4日じゃないよ。」


眠たそうな声でそう言うと、向こうでククッと笑い声が聞こえた。


「一番最初に聞きたくてな、お前の声が」


妙に艶っぽく言う跡部君の声に少し身体が熱くなるのを感じる。

もう・・・。私がそういうのに弱いって知っててやるんだから。


「けど、明日学校出会えるでしょ?」


私はあえてとぼけた声で聞いた。そうしないとすぐ調子にのるんだもん。


「先に執事やメイドに言われるだろうが。家内でもダメだ、一番にお前の声が聞きたい」


いつになく本気な様子に私は頷くしかなかった。

言われて嬉しくないわけではない、逆にすごく嬉しい。

心臓がドキドキして、私には跡部君しかダメなんだなあって思う。


「一つお願いがあるんだが、いいか?」

「どうしたの?」


誕生日プレゼントのことかな。

けど、跡部君からのお願いって珍しいな。

いつも“命令”っぽいのに。


「そろそろ“跡部君”ってのはやめろ。付き合ってるんだからな。」

「でも中学入ってからずっと苗字だったし・・・」


今更恥ずかしい。

私はゴロリと寝返りをうつ


「フン、明日だけでも下の名前で呼ばせるからな。といってもあと10秒か」


時計を見ると確かにあと10秒・・・。

見てるうちにどんどんカウントされていく。

カチッという軽い音と共に12時を指す長い針。




10月4日  跡部君の誕生日




「ほら、4日になったぞ。」


早く言えと言わんばかりの態度。

いつも通りの、いつも過ぎる彼の声に、彼の言い草。

付き合っていると、もし彼がいなくなってしまったら、

どこか遠くに行ってしまったら、どうしよう。

と、思ってしまう時がある。

その瞬間、私の心はズキリと痛み、ただ考えているだけなのに涙が出てくる。

けどそんな気持ちを大切にしたい。


だってつらければつらくなるほど、跡部君が好きだって実感できるから。


祝いの言葉を言おうとゆっくり深呼吸してから言葉を口からだす。


「跡部君、誕生日おめでとっ!大好きだよ」


言った瞬間、身体が火照り始め、思わず毛布に包まってしまう。

するとよりカッカと熱くなる。

けど私の素直な気持ちを伝えれたと思うとなんだかホッとした。



「さっき言ったこと、もう忘れたのか?ほら、言ってみろ」


う・・・、やっぱり言わなきゃダメ?

今まで何度も練習したけど恥ずかし過ぎて・・・。


「ほら、どうした。言えないのか?」


妙に面白おかしそうに聞いてくる跡部君。

絶対に私が恥ずかしがってるって分かってるくせに・・・。よしっ


「おめでと、大好きだよ。・・・景吾君」


あぁ・・・恥ずかしい。手汗がひどい・・・。

・・・穴があったら入りたい。


「言えるじゃねえか。・・・ありがとう」

「今日だけだからっ!プレゼントは何か欲しいものある?」


するとしばし間があり


「そうだな、俺様のことをずっと名前で呼ぶことだな」

「今日だけって言ったよ!?」


思わず布団から飛び出してしまった。

今日だけっていう約束なのに・・・!

すると跡部君は照れたように憂いのある声で言う。


「お前から名前を呼ばれると気分がいいんだよ。・・・嫌か?」


・・・そう言われると、


「ん・・・しょうがないな」

「フッ、明日迎えに行く。・・・それとな」


なんだろ?


「俺はお前のこと、大好きなんて生温いもんじゃないぜ。・・・愛してるからな」







―――――



それだけサッと言うとすぐに電話を切る。


「っはー・・・」


思わずベッドに顔を沈める。

やべえな・・・。あの破壊力。

あいつに名前を呼ばれた瞬間に全身に熱いものが走った。

未だに鼓動が収まらねえ・・・。

あいつに名前を呼ばれるたびに俺の気持ちは上昇していく。

俺をそういう気持ちにさせたのは今までであいつだけ。

本気で好きになったのはあいつが初めてだ。





この気持ちをずっと、永遠に大切にしていきたい。

そしていつの日にか・・・。
                             







END 2013/10/4
  
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